幸い、人気のない図書室から発火したことと、すぐに防火シャッターが自動で降りたこと、消防署が近くにあったことなど、さまざまな奇跡が重なって、けが人は私たち以外に出なかった。
 三年生にとって、忘れられない卒業式になってしまったことは大変痛ましいけれど、人の命にかかわることが起きなくてよかった。

 校舎が燃えてしまったせいで、私達生徒はしばらく自宅待機し、リモートで授業を受けるなどしていた。
 そして今日、ようやく通常どおり登校できることになり、私は久々に制服に腕を通している。
 使っていなかった旧校舎を片付け、そこで授業が行われることになったのだ。
「行ってきます、おばあちゃん」
 写真にあいさつをしてから、私は家を出た。
 太陽がまぶしくて、もう夏が来ていることをあらためて思い知らされた私は、目をつぶる。
 そして、退院してからずっと抱えていた不安な気持ちをなんとか鎮める。
 ……退院してから、瀬名先輩から一度も連絡が届いていない。
 もうとっくに大学に進学し、ひとり暮らしを始めたところだろう。
 もしかして、スマホが焼かれ、そのまま思い出せなくなってしまったのだろうか……。
 ただ忙しいだけだ、と、無理やり自分に言い聞かせる夜を、何度過ごしたか。
 私は「よし」と気合を入れてから、学校へと足を運んだ。

 うれしいことがひとつだけあった。
 新三年生になると、なんと村主さんと同じクラスになることができたのだ。
 そして今、友だちの多い村主さんに、いつ話しかけようかとタイミングを見計らっている。
 ちらちらと彼女がいる前方の席に視線を送っていると、村主さんがすぐに私に近づいてきてくれた。
「ちょっと、琴音、生きてんじゃん!」
「そ、そうなの、生きてる……あと久しぶり」
「何もう、本当心配した」
 久々すぎてぎこちない笑みを浮かべる私の背中を、村主さんがバシッと叩いた。
 相変わらず元気はつらつな彼女を見て、私もつられて気持ちが明るくなってくる。
 村主さんと私の異色なセットを見て、周りの生徒たちはザワザワしていたが、村主さんはそんなことをまったく気にしていない。
 村主さんは、まだ空いている私の隣の席に座ると、「瀬名先輩とは連絡取れた?」と心配そうに問いかけられた。
 その質問に、私は「はは」と乾いた笑みを浮かべる。
「いや、じつはまだ連絡返ってこなくて……」