アパートの近くには大きな桜の木があって、毎年この季節は嫌というほどこの花びらに襲われている。
花を見ても何も思わないのに、桜だけは、どうしてか見るたびに胸が軋むような間隔に陥るので、苦手だ。
でも、桜よりも苦手な花もある。それは、なぜか道端に割いている青い花……勿忘草だった。
よくないことに、アパートの周りはなぜか植物が生き生きとしていて、今俺の足元にも勿忘草が咲いている。
学校で起きた放火事件が春だったことが、何か関係しているのだろうか。
その花を見るたびに頭のどこかがギシギシと痛み始めて、考えることを止められてしまう。
勿忘草を見て少し立ち止まっていると、ふとスマホが震えた。
それは、ずいぶん連絡を取っていなかった相手……岡部からのメッセージだった。
『菅原から新しい連絡先聞いたー。元気?』
高校生のときに、菅原と岡部に誘われて放課後遊びにいくことはたまにあった。
ちょうど先日、菅原と偶然同じ企業の説明会で再会し、連絡先を交換したばかりだ。
火事でスマホは焼きつくされ、メールアドレスと電話番号以外はなにも引き付けずに進学した俺は、本当に何もかもリセットされてしまった状態だった。
俺はなつかしい人物からの連絡に、『元気』と一言だけ帰して、駅へと走って向かった。
〇
side桜木琴音
体の上に鉄板が乗っているかのように、体が重い。動かない。
目を開けると、そこは真っ白な部屋の中だった。
窓の外からは桜が見えて、さっきで自分が図書室で見ていた景色と似ている。
ぼんやりとした思考のまま、ふと自分の腕を見ると、点滴の針が刺さっていて、ところどころ大きな絆創膏が貼られていた。
「え……、琴音、起きたの……⁉」
「お母……さん……?」
「ま、待って、今先生呼ぶから……」
椅子に座っていた母は慌てた様子で立ちあがると、すぐさまナースコールを押して、私の顔必死に見つめている。
そうか、ここは病院で、私はあのあと救急車で運ばれたんだっけ……。
少しずつ少しずつ、さっきのことを思い出した私は、自分が生きていることに心底ほっとしていた。
そして、泣き出しそうな顔をしている母親を見て、私は自然と母親の手を握りしめた。
「大丈夫。どこも、痛くない……」
「お母さん、本当どうなるかと……っ」
「大丈夫だよ、泣かないで」
花を見ても何も思わないのに、桜だけは、どうしてか見るたびに胸が軋むような間隔に陥るので、苦手だ。
でも、桜よりも苦手な花もある。それは、なぜか道端に割いている青い花……勿忘草だった。
よくないことに、アパートの周りはなぜか植物が生き生きとしていて、今俺の足元にも勿忘草が咲いている。
学校で起きた放火事件が春だったことが、何か関係しているのだろうか。
その花を見るたびに頭のどこかがギシギシと痛み始めて、考えることを止められてしまう。
勿忘草を見て少し立ち止まっていると、ふとスマホが震えた。
それは、ずいぶん連絡を取っていなかった相手……岡部からのメッセージだった。
『菅原から新しい連絡先聞いたー。元気?』
高校生のときに、菅原と岡部に誘われて放課後遊びにいくことはたまにあった。
ちょうど先日、菅原と偶然同じ企業の説明会で再会し、連絡先を交換したばかりだ。
火事でスマホは焼きつくされ、メールアドレスと電話番号以外はなにも引き付けずに進学した俺は、本当に何もかもリセットされてしまった状態だった。
俺はなつかしい人物からの連絡に、『元気』と一言だけ帰して、駅へと走って向かった。
〇
side桜木琴音
体の上に鉄板が乗っているかのように、体が重い。動かない。
目を開けると、そこは真っ白な部屋の中だった。
窓の外からは桜が見えて、さっきで自分が図書室で見ていた景色と似ている。
ぼんやりとした思考のまま、ふと自分の腕を見ると、点滴の針が刺さっていて、ところどころ大きな絆創膏が貼られていた。
「え……、琴音、起きたの……⁉」
「お母……さん……?」
「ま、待って、今先生呼ぶから……」
椅子に座っていた母は慌てた様子で立ちあがると、すぐさまナースコールを押して、私の顔必死に見つめている。
そうか、ここは病院で、私はあのあと救急車で運ばれたんだっけ……。
少しずつ少しずつ、さっきのことを思い出した私は、自分が生きていることに心底ほっとしていた。
そして、泣き出しそうな顔をしている母親を見て、私は自然と母親の手を握りしめた。
「大丈夫。どこも、痛くない……」
「お母さん、本当どうなるかと……っ」
「大丈夫だよ、泣かないで」