ーー明日、瀬名先輩の世界に、私は突然いないかもしれない。
 そんな日が、いったいいつ来るのか分からない。
 悲しすぎるから、本当は一秒たりとも考えたくないよ。
 だけど、どんなに想っていても、抵抗できないものって、この世の中にたくさんある。
 現実はきれいごとだけじゃ上手くいかないし、自分だけは大丈夫って思ってたことが突然ひっくり返ることなんて山ほどある。
 約束できる未来なんて、じつはこの世にひとつもないこと、私は知っている。
 だから、感じるべきは形のない不安じゃなくて、“今”……、“今”なんだ。
 それに気づかされたとき、まっさきに目に浮かぶ大切な人は先輩だ。
 ……瀬名先輩以外、いないよ。いないんだよ。
 私は瀬名先輩と、たくさんの“今”を積み重ねたいよ。
「琴音……」
 瀬名先輩の髪の毛に、桜の花びらがついている。
 それを取ってあげようとしたけれど、瀬名先輩の顔がゆっくりと近づいてきた。
 今この瞬間が、永遠に続けばいいのに。
 そんなことを、私は生まれてはじめて思った。

 ……そのときだった。
 突然、空いていた窓から誰かが入り込んで、目の前を通り過ぎた。
 窓の外では桜の木が大きく揺れていて、タイミングよく大きな風が吹き、私たちの視界を大量の桜の花びらが遮る。
 突然すぎて、何が起きなのかまったく分からなかった。
 その侵入者は、図書室の隅にいる私たちにいっさい目もくれずに、信じられない素早さで、図書室の隅にあったストーブの石油を取り、床にまき散らす。
 そして、小石を投げるように、火がついたままのライターを放り込んで、再び窓から逃げていった。
「え……」
 ようやく出た声はそんな一音で、火はみるみるうちに大きくなっていく。
 あまりに唐突な出来事に頭が追いつかず、「あのストーブで焼きマシュマロを食べたよな」なんて、走馬灯のように思い出していた。
 今さら、さっきの小山先生の注意がぼんやりと浮かんできて、やっぱり先生の話はちゃんと聞くべきなんだと反省した。
 いや、違う……。今はそんな反省をしている場合じゃない。違う。ちゃんと頭動かせ。
「瀬名先輩、逃げましょう……!」
 ようやく声を振り絞って、私は瀬名先輩の肩を揺すった。
 しかし、瀬名先輩は信じられないほど顔面蒼白で、その場に立ち尽くしている。