ふとそんな考えが過ぎって、電車に乗りながらまたぼうっとしてしまった。
 けれど、“今日”琴音と会える。その事実だけで、俺は胸がいっぱいだった。
 琴音と出会ってから、一日一日の重みがこんなにも変わってしまった。

 学校に着くと、すっかり春の装いの生徒で溢れていて、窓からは満開の桜が見えていた。
 昼休憩に二年の教室に向かうと、相変わらず俯いた様子の琴音がそこにいる。
「……背景に溶け込みすぎだろ」
 その暗い様子に俺は思わず吹きだしながら、一緒に昼飯を食おうと、声もかけずにしばらくその様子を眺めてみる。
 公園でのあの夜、琴音は子供みたいに泣きじゃくって、過去の自分と闘っていた。
 その姿を見て、守ってあげたい気持ちと愛おしい気持ちが高まって、思わず二度目のキスをしてしまったのだ。
 アイツ、俺が卒業したらまたひとりでいるのだろうか。
 そんなことを心配に思っていると、ふと思い立ったように琴音は立ち上がって、俺がいないほうのドアから教室を出ていってしまった。
 そんなに鬼気迫った様子でどこに行くんだ、と不思議に思いながら見つめていると、いつの間にか二年の女子が自分の周りに群がっていた。
「せ、瀬名先輩、何か用事ですか? 誰か呼びますか?」
 顔を赤らめた女子が、友人に後押しされ代表するような形で、俺に質問してきたので、俺は教室のドアに手をかけながら、表情ひとつ変えずに答える。
「彼女待ち。でも今俺をフルシカトして出ていった」
「え!? か、彼女、このクラスにいるんですか? ちょっと、皆ー!」
 なぜかテンションがハイになったその生徒は、彼女が誰なのか名前も聞かずに教室の中へ走っていった。
 俺は、そんな様子に呆れながら、琴音が消えていった先にある隣の教室を、通り掛けに覗いてみる。
 すると、そこには村主の前でお弁当を持って、何か必死そうな様子の琴音がいた。
 派手な友人とお昼を食べていた村主は少し驚いている様子だったが、すぐに笑顔になって、琴音を隣の席に座らせる。
 琴音はぺこぺこと頭を下げながら、安心したように、嬉しそうに、笑っていた。
「まあ、いいか……」
 休み明けにまず俺でなく村主に会いに行くところは不服だが、その嬉しそうな笑顔があまりに可愛かったので許してしまった。
 俺は菓子パンを加えながら、声もかけずに琴音たちのいる教室を通り過ぎる。