記憶のリハビリなんて、一緒に過ごすだけでちっとも力になれていない。
 それなのに、瀬名先輩はどうしてこんなに私に優しくしてくれるんだろう。
 そんなことをぐるぐる頭の中で考えていると、小さいころよく遊んでいた公園にたどり着いた。
 滑り台と鉄棒しかない、小さな小さな公園。
 もちろん、こんな雪が降っている真夜中の公園には誰もいない。
 瀬名先輩は、ベンチに座ると、私が座る部分の雪を払って「おいで」と手招きした。
 傘を持ったまま隣の席に座ると、瀬名先輩は手に持っていた何かを私に渡した。
「これ、お前に返すわ」
「え……、これって私の痛い日記」
「自分でも痛いって分かってんのか、えらいな」
「なんで、返してくれるんですか」
 それって、もう私との関係を終わらせたいってことなのかな。
 悲しくなって黙ると、彼は言葉を続ける。
「言っとくけど、もうそんなおとりは必要ないってことだから」
「おとり……」
「意味、分かんだろ」
「分かんないです……」
「本当頭悪いなお前」
 先輩は悪態をつきながら、私の膝の上でパラパラとそのノートをめくる。
 そこには、久々に見るクラスメイト観察日記と、その日感じたことのしょうもないポエムが書かれていた。
 あらためてみると自分でも怖くなってくるが、このときの私は私なりに必死だったのだ。
「お前、これ卒業まで書ききったら、どうするつもりだったの」
「おばあちゃんにお供えしようと思ってました。レポートみたいに」
「ふぅん……。これ、俺も全部読んだけど」
「えっ、読んだんですか! 最悪だ……」
 恥ずかしすぎて顔を両手で覆う私を無視して、瀬名先輩は話を続ける。
「全部読んで思ったけど、お前普通に友達できるよ」
「え……」
「できるよ。だから、変に考えすぎずに、ほしくなったらつくれ」
 予想もしていなかったことを言われ、私は驚き目を泳がせた。
 あまりにまっすぐに言われたので、なんだか恥ずかしくて目を合わせることができない。
 言われていることは小山先生と同じようなことなのに、どうしてこんなに心が揺れたのだろう。
 私の日記なんかを見て、なんで瀬名先輩はそんなふうに思ってくれたのか、分からない。
 そんな私を見て、瀬名先輩は理由を答えてくれた。