瀬名先輩のことを思うと、ますます忘れられてしまった悲しみがこみ上げてきて、私は気づいたら彼とのトークルームを開いていた。
 真っ暗な雪景色の写真を、何も余計なことは考えずにポンと送ってみる。
 それから、『雪が降ってます』と中身のないメッセージを添えた。
 ありえないけれど、自分のことを思い出してくれるかもしれない可能性にかけて……。
 ああ、でも、そういえば、瀬名先輩はスマホを落として失くしたと言っていたから、このメッセージさえ彼には届かないかもしれない。
 そっか、じゃあもう、私と瀬名先輩を繋げているものはもうないんだ……。
 教室で焼きマシュマロを食べたことも、屋上で飛行機を飛ばしたことも、視聴覚室でホラー映画を観たことも、音楽室でピアノを聴かせてくれたことも……。
 全部全部、忘れちゃったの?
「先輩……」
 再び涙が出かけたそのとき、手に握りしめていたスマホが震えた。
 メッセージの送信者の名前を見て、私は息を止めた。
 瀬名類、というたった三文字が、こんなにも私の胸を縛りつけるなんて。
 私は震える指先でメッセージを開いた。
『電話かけていい?』
 たった一言、それだけ送られている。
 電話という予想外の提案に完全に動揺した私は、どう返したらいいのか分からずしばらく画面を見つめたまま固まった。
 親以外と電話をするなんて、小学生のときの連絡網以来だ……。
 なんて、どうでもいいことを考えてもたもたしていると、すぐに次のメッセージが飛んできた。『やっぱ電話いいや。会いにいくから』、と。
「な、なんで……?」
 私のことを忘れているはずなのに、どうして?
 もしかして、思い出したの?
 わけもわからず涙が溢れてくる。
 分からないよ、瀬名先輩。私は、どうしたらいいの?
 瀬名先輩の、住所を送れという指示にしたがって、私は戸惑いながら場所を送った。
 本当に来るわけなんかないって、思いながら。
 だけど、『了解』と返ってきたきり、瀬名先輩からメッセージは来なくなった。
 もしかして、本当に今向かっている……?
 そんな訳ない。だけど、かすかな期待をしてしまっている自分がいる。
 メッセージが来なくなってから三十分後、スマホが再び震えた。振動は一度で終わらず、震え続けているので、それが電話だとすぐに分かった。