怯えたような瞳を見て、私を心配する気持ちと、自分を心配する気持ちの両方が透けて見えた。
 私はこの表情を、ずっと前にも見たことがある。
 ……そのとき、嫌でも中学時代のできごとが蘇った。

 それは、イジメの事実が教師に知れ渡り、担任から母親に連絡がいった日のことだった。
 その日家に帰ると、母親はひどく落ち込んでいて、父親に『お前がちゃんと見てないからだ』って、テンプレみたいな責任の押し付けをされていた。
 きっと、母親は仕事に子育てに家庭に、いっぱいいっぱいだったんだと思う。
 自分に自信があったからこそ、自分を責め立ててしまったんだろう。
 ひとしきり泣いたあと、私の肩を揺らしながら、母親はつぶやいたんだ。
 私の胸の中で、一生消化できない言葉を。
『なんで何も言ってくれないの。これ以上、母さんを追い込まないで。傷つけないで。もう、琴音のことが、本当に分からない……』
 その言葉を聞いたとき、私という人間は母親にすら理解し難くて、人を苦しめる面倒な性格なんだと、子供ながらに大きなショックを受け、見放された気がした。ますます、自分のことが嫌いになった瞬間だった。
 私は、悲しいことがあったときに、それを言葉にすることが昔から極端に苦手で、誰かに助けを求めることが、恥ずかしくてできなかった。
 だから、それを責められることは、どうしていいか分からなくて、とても辛かった。
 ……私はただ、母親から、辛かったね、というたった一言が欲しかっただけだ。
 あのときの、うなだれた母親の細い首が今でも目に焼き付いている。
 母親は、すぐに私を抱きしめて何度も『ごめん』と謝っていたけれど、私の心の中は、揺らしたらカランと音が鳴るほど、すでに空っぽだった。
 あのとき、私は決めたんだ。
 もう誰も傷つけたくないし、傷つきたくない。だから、ずっとひとりでいるって。
 ひとりでいたら、大切な人ができることもないし、そうしたら、失うものもない。もう、大切な人を傷つけなくて済むんだって……。

「……イジメられたり、してないよ。安心して、お母さん」
 過去を断ち切るように、言葉を振り絞った。
 母親は、心底安心しきった顔をして、「よかった」と目を細める。
「し……、進路希望、ちゃんと出すね。将来のことも、ちゃんと考える」