「先生から聞いたけど、まだ進路調査表出してないんだってね。もう琴音ひとりだけだって、嫌味言われちゃったよ」
瞳にも疲れがにじみ出ていて、私は「ごめん」と言って頭を下げた。
さっきまで父親と言い合う声が聞こえていたから、私に強く言うよう母親が叱られていたのだろう。
いつもそうだ、父親は、言いたいことをすべて母親に押し付ける。
私のイジメが発覚したときも、父親は母親を叱責していた。
「……琴音は、将来何になりたいとか、イメージない?」
母親の質問に、とっさに言葉が出なかった。
だって、本当にイメージが沸かないから。
自分に何ができるのか、何が求められているのか、ちっとも想像できない。
……それはたぶん、自分のことがちっとも好きではないからだ。ちっとも自分に期待できないからだ。
進路なんて、テキトーに書いて提出すればよかった。そんな後悔が、頭の中を駆け巡っている。
母親の顔を見ることができなくて、私は母親の痩せた鎖骨をじっと見つめていた。
「……琴音、黙ってたら解決するなんて思わないで。もう高校生なのよ。もっと自分の人生を真剣に考えて。社会人じゃそんなの通用しないの、わかる?」
母親の言葉が、ただただ鉛のように胸の中にまっていく。
重たくて、逃げ出したい。
学生時代からハツラツとしていて、クラスの中心にいるような人物だった母親は、正反対になってしまった私のことがコントロールできなくて苛立つのだろう。
「母さんは、もう高校生のときには大学だけじゃなくて就職のことまで考えてたわよ。もし私の時代だったら、琴音の生き方じゃ生きていけない」
「うん……」
「せっかく頭は私に似て、いい高校に行けたのに。母さんは高校生活楽しくて仕方なかったよ? 三年なんてあっという間なんだから、もっと友達もつくってさ……」
母親は、いつも自分の過去と今の私を比べたがる。母さんだったら、母さんの時代は……と。
その度に、私は喉まででかかった言葉をぐっと飲み込むことに耐えている。
言ったら、母親が壊れてしまうかもしれないから、ずっとずっと耐えているのだ。
今日は父親に強く叱られたせいだろうか。情緒不安定な母親の言葉は止まらなかった。
「もしかして琴音、またイジメられてたりしないでしょうね……?」
瞳にも疲れがにじみ出ていて、私は「ごめん」と言って頭を下げた。
さっきまで父親と言い合う声が聞こえていたから、私に強く言うよう母親が叱られていたのだろう。
いつもそうだ、父親は、言いたいことをすべて母親に押し付ける。
私のイジメが発覚したときも、父親は母親を叱責していた。
「……琴音は、将来何になりたいとか、イメージない?」
母親の質問に、とっさに言葉が出なかった。
だって、本当にイメージが沸かないから。
自分に何ができるのか、何が求められているのか、ちっとも想像できない。
……それはたぶん、自分のことがちっとも好きではないからだ。ちっとも自分に期待できないからだ。
進路なんて、テキトーに書いて提出すればよかった。そんな後悔が、頭の中を駆け巡っている。
母親の顔を見ることができなくて、私は母親の痩せた鎖骨をじっと見つめていた。
「……琴音、黙ってたら解決するなんて思わないで。もう高校生なのよ。もっと自分の人生を真剣に考えて。社会人じゃそんなの通用しないの、わかる?」
母親の言葉が、ただただ鉛のように胸の中にまっていく。
重たくて、逃げ出したい。
学生時代からハツラツとしていて、クラスの中心にいるような人物だった母親は、正反対になってしまった私のことがコントロールできなくて苛立つのだろう。
「母さんは、もう高校生のときには大学だけじゃなくて就職のことまで考えてたわよ。もし私の時代だったら、琴音の生き方じゃ生きていけない」
「うん……」
「せっかく頭は私に似て、いい高校に行けたのに。母さんは高校生活楽しくて仕方なかったよ? 三年なんてあっという間なんだから、もっと友達もつくってさ……」
母親は、いつも自分の過去と今の私を比べたがる。母さんだったら、母さんの時代は……と。
その度に、私は喉まででかかった言葉をぐっと飲み込むことに耐えている。
言ったら、母親が壊れてしまうかもしれないから、ずっとずっと耐えているのだ。
今日は父親に強く叱られたせいだろうか。情緒不安定な母親の言葉は止まらなかった。
「もしかして琴音、またイジメられてたりしないでしょうね……?」