「別に。なんか無理して陰キャラ作ってるみたいだから崩してやりたくなっただけ」
「あれキャラづくりなのかよ」
「当たり前じゃん。声作ってるし。なんか昔言われたんじゃん? 意外と整った顔してるからそれでイジメられたのかもね」
 あのぼそぼそした話し方は、わざと作っているのかもしれないなんて、一度も思ったことがなかった。
 村主が、案外人のことをちゃんと見ているという事実に驚いて、俺はしばらく閉口した。
 すると、彼女は長い茶髪をかきあげてから、俺のことをぎっと睨みつけて指さす。
「ていうか私、瀬名先輩以外にも男たくさんいるから、心配しないでいいから」
「一ミリも心配なんかしてねぇよ」
「だから! 大丈夫だから、普通に接してよね」
 そこまで強気で言い放った村主の耳が、少しずつ赤くなっていることに気付いて、俺は言葉を探した。
 今までなら、村主の顔も見ずに無視をしていただろう。だけどすぐに、アイツの言葉が思い浮かぶから。
『そんな言葉、簡単に言わないで。ただ傷ついたり不安になったりしただけなのに、そんな言葉で、笑いに変えないで……』
 きっと、俺が想像する以上に、人は言葉に傷つけられる。
 今の彼女だって、もしかしたらすごく言葉を選んで、悩んで、今日俺の隣にやってきたのかもしれない。
 そう思うと、なんて返したらいいのか、余計分からなくなった。
「……すでに普通に接してるだろ」
 淡白な言葉をそのまま返すと、村主は「たしかに」と言って笑った。
 そして、少し間を置いて彼女は問いかけた。
「……桜木のこと、好きなの?」
「お前に答える意味ある?」
「好きなんだ。あー、ムカつくなマジで。どうすんの?」
 どんな単語の羅列だよ、とつっこみたくなるほど要点のみのセリフに、俺はため息をつく。
 どうすんの?というのは、忘れるくせにどうすんの、ということだろう。
 そんなの俺が知りたい。方法があるなら教えてほしい。
 俺が不機嫌になったことを察知したのか、村主は「でもちょっとわかる」と、焦って言葉をつけ足した。
「……変なやつだけど、悪いやつじゃないのは、わかる」
 そう言った村主の顔は、少し戸惑っているようで、うっすらと眉間にシワが寄っている。
 自分の中で桜木をどんな位置に配置したらいいのか分からないのだろう。
 俺だって分からない。アイツのことなんて、全然分かってない。