誰かに好かれたいと思うことは、当たり前の感情だよ、と。
 それはとっても自然なことで、村主さんだけが欲していることじゃない。誰だってそうだ。自分を好いてくれる味方は多いほうが安心するよ。
 だから、私は普通じゃないなんて、そんなふうに自分を決めつけないで。
 周りにいる人も、村主さんが普通じゃないなんて、勝手に決めつけないで。
 ―――ねぇ、簡単に、そんな呪いをかけないでよ。
 昔の自分と重ねてしまった私は、知らぬ間に言葉を発していた。
「メ、メンヘラとか、そんな言葉で……勝手に人の気持ちをくくらないでください……」
「……は?」
 岡部さんの低い声が瞬時に返ってきて、私は一瞬怯んだ。
 瀬名先輩と村主さんは、目を丸くしてこちらを見ている。
 村主さんを傷つけた張本人の私が、いったい何を言っているんだろう。
 だけど、言葉が止まらなかった。
「そ、そんな言葉、簡単に言わないで。ただ傷ついたり不安になったりしただけなのに、そんな言葉で、笑いに変えないで……」
 声が、唇が、手が震えている。
 でも、見過ごせないよ。
 私はもう、誰かが傷ついたりしている姿を、見たくないんだ。……それだけなんだよ。
「何言ってんのか、全然意味分かんないんだけど。類に気に入られてるからって調子乗ってんなよ」
「まあまあ岡部ちゃん、落ち着いて……」
 岡部さんと菅原さんの会話を完全に無視して、瀬名先輩はスッと村主さんの元へと向かった。
 村主さんは涙を拭きながら、声を荒げる。
「なっ、何言ってんのアイツ。マジ意味わかんない……。瀬名先輩、やっぱアイツ頭おかしいよ。私にしたほうがいいよっ……」
「村主」
 瀬名先輩は、村主さんの顔を覗き込んで、目線を合わせる。真剣な顔で見つめられた村主さんは、話すことを止めた。
 そして、瀬名先輩はゆっくり言葉を発したんだ。
「傷つけたなら、ごめん」
「え……」
「あと、村主の気持ちには答えられない。この先も」
「な、何……それ……っ」
 村主さんは、ぽろぽろと涙を流して、瀬名先輩の胸を叩いた。
 おそらく気持ちに答えることすら面倒くさがっていた瀬名先輩が、はじめて村主さんに真摯に向き合った瞬間だったのだろう。
 彼女は悲しむよりも前に、驚き目を丸くしていた。
 それから、ははっと笑って、制服の袖できれいな涙を拭いながらつぶやく。