「やっぱりそうなんだ。私達と遊ぶより、桜木の方がいいんだ」
 村主さんが、あまりに苦しそうな顔をするので、私は言葉に詰まった。
 やっぱり、村主さんは本気で瀬名先輩のことが好きなんだ……。
 最初は、どうしてあんなに気まぐれな先輩のことが好きなのか分からなかったけれど、今なら少しわかる。
 彼と一緒にいると、なんだか前に進んでいるような気がするから。
「ムカつく……。悔しい」
「す、すみません……」
「謝んな。余計ムカつくから」
「はい、すみません……」
「ねぇどうやって気に入られたの? 教えて」
「いや、先輩はただのヒマつぶしなだけで……」
「ねぇ、前から思ってたんだけど、アンタなんでそんなわざとらしく暗い声で話すの? 地声そんなんじゃないでしょ」
「え……」
 ぶりっ子声と言われたことを思い出した私は、硬直した。
 俯きながら動揺していることを必死に隠そうとすると、村主さんは私の髪の毛を持ち上げた。
 一気に視界が開けて、村主さんのきれいな茶髪と、お人形さんみたいな顔が目に入った。
 村主さんは訝しげに私の顔をじっと見つめると、「意外と普通じゃん」と言い放った。
「何キャラ演じてるのかよく分かんないけど、髪の毛切りなよ。切ったほうがいいよ」
「いや……、この方が落ち着くので」
「こっちが落ち着かないわ。だから座敷童って言われんだよ」
「え……そう言われてるんだ……」
「あ、ごめん。知らなかったんだ。まあ、気にすんな」
 ぽん、と肩に手を置かれたが、私はどん底まで落ちてしまった。
 地味に生きていたはずなのに、あだ名をつけられるほど逆に悪目立ちしていた事実が辛すぎる。
 私は髪を触りながら、どうしたらいいのか分からず動揺していた。
 すると、キラキラしたきれいな爪が生えた手が、そっと私の顔に伸びてきて、そのまま髪の毛を耳にかけられた。
「うん、そうしてれば悪目立ちしないんじゃん?」
「あ、ありがと……」
「いやお礼とかウザいからいい」
 中学のときからうじうじ気にしていたことを、いとも簡単に壊された私は、目を丸くした。
 サラッとそんなことをしてくれる村主さんの優しさに驚きながらも、私はたどたどしくお礼を伝えた。
 そうか。目立たないようにしようとして、私、逆に目立ってたんだ……。
 言ってもらえて、よかった。言われなかったら気づかなかった。