教室で言われたいくつもの言葉が、私を動かなくさせている。
『琴音の声って、なんかアニメ声でぶりっ子だよね』
『ねぇ、病んでますアピールやめな? うちらがイジメてるみたいじゃん』
『なんかこの辺、メンヘラ臭するんだけどー』
『か弱い子ぶってんなよ。そういうとこが男受け狙っててムカつくんだよ』
 ぶりっ子な声って言われてから、人前で話すことが怖くなった。俯いて低い声で話すようになった。
 病んでる、メンヘラって言われたら、本当にだんだん気持ちが落ちていった。自分は病気なのかもしれないって思ってたくさんネットで調べたりした。
 男受け狙ってるって言われたから、男子とは目も合わせなくなった。おしゃれもやめて、髪を長くして顔を隠した。
 いろんな言葉が、呪いとなって、私の生活からいろんなものを奪っていく。“無”になっていく。
 ……もう、誰の視界にも入りたくない。
 だって、気づかれなければ、傷つかない。
 そして私は絶対、こんなふうに言葉で誰かを傷つける人間にはならない。誰も傷つけない。
 だから、ひとりでいる。
 ずっと、ひとりでいる。
 そうしたら、私の世界は壊れることはない。
 耐えるんだ。卒業まで。
 大丈夫、私にはばあちゃんがいるから。
 大丈夫。大丈夫、頑張れ。
 頑張れ、私。
 何度もそう自分に言い聞かせて、私は涙を拭った。
 手に持ったみかんは冷めて、さっきまでの湯優しい温かさは消えていた。
 私はあの日、残りの学校生活を石のように静かに過ごすことを決めたんだ。



 今、学校に行くのは別に嫌いじゃない。
 昔の私を知っている人はひとりもいないし、クラスの子たちも真面目で皆いい子だから、わざわざ私に絡んできたりしない。
 小山先生は私のことを心配しているみたいだけれど、私は私なりにこの生活をちゃんと楽しんでいる。
 ……ここ最近は、予想外なことばかり起きて、目まぐるしいけれど。
「あ、発見」
 突然、女性の低い声が降ってきて、机に座っていた私は恐る恐る顔を上げた。
 すると、そこには不機嫌そうな表情の村主さんがいた。
「昨日、放課後一緒にいたでしょ。瀬名先輩と」
「え……」
 突然のことに動揺して、どう答えたらいいのか分からない。
 視聴覚室にいるところを見られたのだろうか。
 俯きながら黙っていると、村主さんはバンッと机に勢いよく手を置いた。