だけど、今日ばあちゃんが持ってきたのはみかんだった。
「えっ、それあっためるの!?」
「そうそう、おいしいんだよ。焼きみかん」
 ばあちゃんは、驚いている私をよそに、手のひらサイズのみかんを躊躇いなくストーブの上に置いて、火力を調整した。
 とたんに、いつものみかんとは違う独特な香ばしい香りが漂いだして、みかんの皮はみるみる黒くなっていく。
 新聞紙の上に熱々のみかんをあげると、ばあちゃんはそれを手でふたつに割った。
 焼き芋みたいな工程なのに、そこにあるのはみかん……不思議な光景だ。
「おいしいから食べてみな」
 私は温かなそれを、恐る恐る一粒口に運ぶ。
 すると、口の中にいつものみかんとは違うほくほくとした甘みが広がった。
「ばあちゃん、甘い! おいしい、これ」
「体があったまるからね。風邪引かなくなるよ。たくさん食べな」
「やったー、もう一個焼いちゃおう」
「琴音の手は細くて冷たいねぇ」
 ばあちゃんは、焼きみかんにはしゃいでいる私の片手を、そっと両手で温めながら、心配そうにつぶやいた。
 ばあちゃんの手は、しわしわだけど、ふっくらしてていつも温かい。
 なんだか落ち着く。
 さっきまで、ひとりで公園にいたこと……それだけじゃなく、ここ最近ずっと学校でもひとりでいることを、ばあちゃんが知ったら悲しむだろう。
 相談したいけど、心配させたくない。
「……琴音、最近明るくなったね」
「えー、えへへ、そうかな。新しい友達できたからかな」
「何かあったんかい? 笑った顔が、無理してるね」
「え……」
 そう言われて、一気に全身に冷や汗をかいた。
 もしかして、ばあちゃんには見透かされてるの……?
 どくどく、と心臓が大きく拍動して、私は言葉に詰まる。
 ばあちゃんは私の手を握ったまま、心配そうに私の顔を見つめている。
「何かあったら、ばあちゃんに言うんだよ」
「何もないよ。ばあちゃん、本当心配性だなー。あ、そうだ課題今日多いんだった! このみかんもらっていくね」
 私は動揺を悟られないように笑顔を作って、焼きみかんをひとつ手に持って立ち上がった。
 カバンを肩にかけて、逃げるようにばあちゃんから離れて、二階に駆けあがる。
 自分の部屋に入ると、私はドアの前で体育座りをしながら涙を堪えた。
 自分のどこが皆に嫌われているのか、分からない。