「知ったような口聞くな」
 ……そんなに自分を落とさないで。誰かと比べないで。
 思ったことを、上手く伝えられない。
 私がひとりになった理由は、こういう伝え下手なところにあるの、忘れてた。
 調子に乗って話さなきゃよかった。
 落ち込みながら、私は消え入りそうな声で「ごめん」と謝る。
 そんな私を見て、彼女はため息交じりに帰る支度を始めた。
「まあとりあえず、瀬名先輩がアンタのこと恋愛の意味で好きじゃないって分かったからいいや。ライバルになりそうなレベルじゃないし、もうアンタに興味ないから大丈夫」
「はあ……」
「はい、お金。じゃ、先に帰る」
「えっ、これ多すぎっ……」
 私の分まで払うつもりなのだろうか。
 私はすぐに千円札を返そうとしたが、彼女は「二千円くらい私からしたらはした金なんだけど」と言われ、突き返されてしまった。
 裕福なお家ということだろうか。でもそれは私には関係ない。
「村主さん。いいよ、いらないよ」
「皆みたいに素直に喜んで受け取っとけよ」
 必死に返そうとしたが、村主さんはそう言い放つと、カバンを肩に担いで去っていってしまった。
 私はお札を持ちながら、しばらくお店に突っ立っていた。



 村主さんの言う“無条件で自分を好きでいてくれる人”は、私にとってのばあちゃんのような存在ということだろうか。
 ツラいことがあっても、クラスメイトからはぶかれても、ばあちゃんがいるから大丈夫。そう思って登校していた中学生時代。
 まさか中学の卒業式当日に亡くなるなんて、思ってもみなかった。
 ばあちゃんが世界からいなくなった日から、ばあちゃんが残していったものや言葉が私のお守りになった。
『高校生になったら、友達は作らなくてもいいから、ばあちゃんに話せるような思い出、作ってね』と、そんな約束が胸の中に残っていた。
 ばあちゃん、ごめん。本当にまだ、友達はできそうにないよ。素敵な思い出もない。
 私はまだ、人とかかわることが怖い。
 傷つけられたり、傷つけることが怖い。
 でも最近、瀬名先輩や、その周りの人と話す機会が増えて、自分だけって思っていた考えが、意外とそうじゃないことも知ったよ。
 皆、寂しいことは怖いんだ。
 村主さんが持っている、自分だけが普通になれないという呪いは、その後の人生を左右するほど強烈だ。