単独行動の生徒は、大人にはそんなにかわいそうに見えてしまうものなのか。
 私は声にできない疑問を胸の中に増幅させ、小山先生の大きな瞳から目を逸らした。
 ストーブからは柔らかな温熱が発せられていて、加湿器代わりに上に乗せられた銀色のやかんは、シュンシュンと音を立てて沸騰している。
 私は、少し大きめのグレーのセーターを指先まで伸ばして、ストーブで温まった手を保温した。
「桜木。どんな毎日も人生最後なんだぞ。大人になったら同じような毎日はあったりするけど、学生時代はそうじゃない。今は分からないと思うけど、本当に日々の色濃さが違うんだよ。俺は桜木の意外とジョークが通じるところとか、シュールな感性持ってるところとか、知ってもらえないのはもったいないと思うけどな」
「その、シュールな感性って褒め言葉なんでしょうか……」
 小山先生は美術の先生だ。授業で私が描いた絵を見たときに『上手いのか下手なのか分からないところがいい』と、非常に分かりにくい称賛をしてくれた。今でもあれは褒め言葉なのか疑問だ。
 小山先生のことは嫌いではないけれど、私がひとりでいたいことを理解してもらうには、きっとまだ難しいだろう。
 うちのクラスは皆仲がいいので、余計に私が浮いて見えて、気になってしまうのはすごくわかる。
 私は黒いリュックを背負って立ちあがると、ペコリと頭を下げてお礼を伝えた。
「気にかけていただきありがとうございます。でも本当にお気遣いなく。あと先生、やかんの水、もう空っぽだから気をつけてください」
「えっ、あぁ、本当だ。入れておくわ」
「さようなら。失礼しました」
「待て桜木。これ持って帰れ。引き止めて悪かったな」
 先生が投げた何かをパシッと両手で受け取った。
 手を開くと、そこにはミニサイズのホッカイロがあった。
「元気がないときは体を温めるのが一番らしいぞ」
「……ありがとうございます」
 私、全然元気なんですけど、という言葉を飲み込み、小山先生の善意を素直に受け取って、私は職員室をあとにした。

 ここはすごく田舎だけど、澄んだ冬空に煌々と輝く星は美しい。
 今日は雪だから、そんなまぶしい星は見えないけれど、でも私は、灰色の雪空の方が落ち着くから好きだ。
「寒すぎる……。しかもバス遅れてる」