岡部の攻撃的な態度を見て、昨日の桜木の姿が思い浮かんだ。
 言葉の呪いは解けないと、何年経っても引きずって傷ついていた彼女。
 岡部のキツイ言葉を受けて、あの女生徒は今どんな気持ちなんだろうか。
 がらにもないことを想像してしまい、俺は急にすべてがだるくなった。
「ねぇ、最近放課後何してんの? 変な女にハマってるとか、頭おかしくなったとかって、村主が言ってたよ」
 俺の機嫌が悪くなっていることに気づかずに、岡部は笑顔で話しかけてくる。
 俺はいっさい何も答えないまま校内にあるコンビニへと向かうが、菅原も同じように話しかけてくる。
「ていうか類、村主に告られたんだろ? オッケーしたの?」
「するわけないじゃん、類はメンヘラ嫌いなんだから」
「はは、たしかに。じゃあ放課後遊んでる相手が新しい女? 今度俺らも混ぜてよ」
「類が気にいる女の子なんて、珍しすぎるもん。妬けちゃうから、いろんな意味で仲よくしたいなー」
 いっさい何も話していないのに会話が進んでいく。
 俺、なんでこいつらと一緒にいるんだっけ。
 こいつらが桜木に心ない言葉を放つことが容易に想像できてしまい、俺はそれに怒りすら感じていた。
 よく分からないけど、絶対に桜木とこいつらを出会わせたくない。見せたくない。
「ねぇ類聞いてんの? いい話あるから今日お昼誘ったんだよ?」
 あまりに岡部がうるさく付き纏うので、俺はようやく「なんだよ」と言って、岡部の言葉に反応した。
 彼女は「やっとこっち向いた」と怒りながらも、ごそごそと財布から何かを取り出して俺に見せつけた。
 それは、テーマパークの写真が印刷されたチケットだった。
「遊園地の無料チケット! お母さんからゲットしたの。類にもあげるから、皆で行こう?」
「遊園地って、あの二駅先のおんぼろ遊園地か」
「そうそう、乗り物が壊れそうである意味絶叫系がめちゃ怖いってやつ」
 アイツどうせ、友達と遊園地に行ったことなんかないんだろうな。
 そのチケットを見て、すぐに桜木の顔が浮かんできた。
 誘って、無理やり絶叫系アトラクションに乗らせたら、どんな反応をするだろうか。もう想像するだけでおもしろい。
「もらうわ、サンキュ」
「あっ! 私たちと行くためにあげるんだからね!」
 岡部のセリフを無視して、俺はチケットを手に取った。