そんなことで、彼に親近感を抱いてしまう私は単純な生き物だ。
 そんなふうに思っていると、突然、頬に温かい指が触れた。
「……そんな痛いか。ごめん」
「も、もう痛くないです」
「あっそ」
 顔に誰かに触れられたことがはじめてで、驚きすぎて一瞬呼吸が止まった。
 瀬名先輩のまっすぐな目に、自分の間抜けな顔が映ることが嫌で、私はぱっと目をそらす。
 そして、彼は何ごともなかったかのように立ちあがると、紙飛行機をもって右手を大きく振りかぶった。
 そのとき、大きな追い風が吹いて、瀬名先輩のきれいな髪の毛をふわりと揺らした。
 飛行機は風に乗って平行に飛び、ゆっくりと降下していく。
 夕暮れ時の空に、真っ白い紙飛行機が飛び立った瞬間は、少しだけ美しかった。
 いろんな条件が重なって、想像以上に飛距離を伸ばした紙飛行機を見て、私は思わず拍手をしてしまう。
 瀬名先輩は私を振り返ると、ふっと一瞬だけ目を細めた。
「勝ったな、これは」
「あ、そうだ。これ勝負だったんですっけ……」
「もうお前飛ばさなくていいよ。勝負ついてるからな。行くぞコンビニ」
 そう言い放つと、瀬名先輩は自分の荷物をもって出口に向かって歩きだした。
 私はそんな瀬名先輩を無理やり引き留めて、焦って手に持っていた飛行機を飛ばした。
 しかし、追い風も何も吹かずに飛ばされた紙飛行機は、弱弱しく降下していく。
 落ち込む私を見ながら、「無駄なことすんなよ」と瀬名先輩は私の腕を片手で引っ張り、再び出口に向かう。
「うう……、普段の行いは絶対私の方がいいのに……」
「あ? ハーゲンも買わせんぞ」
「悪魔……」
 落ち込みながら階段をくだっていると、逆に階段をのぼってくる音が下から聞こえてきた。
 屋上に来るってことは……先生とか?
 もしかしたら怒られるかもしれない、なんて思っていたけれど、そこに現れたのは派手なギャル……村主さんだった。
「あっ、瀬名先輩やっぱここにいたの!? 今日カラオケ行こうって言ってたじゃん!」
「それお前が勝手に話してただけだろ。知らねー」
「はあ? なんでそんなこと言うの」
 怒っている彼女の視線が、だんだんとうしろにいる私に移動してきて、自分の喉がきゅっと恐怖で締まるのを感じた。
 しかも、腕は瀬名先輩に掴まれたままだ。今振り払うほうが余計に不自然だろう。