「あんまり、見たくないです進路調査表」
「なんで? 先のこと考えんの怖いとかそんなやつか」
「いや、全然違くて……」
「なんだよ、話してみろ」
「えぇ……、聞いてもつまんないですよ」
「お前がつまんないのは通常だろ」
「ひどい……」
 瀬名先輩は、私が千切った大学ノートの紙を奪うと、胡坐を掻いて紙飛行機を折り進める。
 私もなんとなく腰を下ろして、膝を抱えながら思い出したくもない過去を口にした。
「"げ、桜木と同じ高校なのかよ、進路変えよ"って……言われたことがあるんです」
 そう告げると、瀬名先輩は紙を持ったままぶっと吹き出した。
「ウケるな。なんだそれ」
「ウケないですよ、全然……」
 だから話したくなかったのに。
 あれは忘れもしない、中学二年冬のことだった。
 同級生からハブにされていた私は、進路調査票をクラスメイトに見られ、心ない言葉をぼそっとうしろで呟かれたのだ。
 ぎりぎり聞き取れる声だったけれど、その言葉はぐさっと胸に突き刺さり、いまだに思い出すたびに胸がきゅっと苦しくなる。そんな言葉が、中学時代にはいくつもある。
「なんで自分を傷つけた言葉って、呪いみたいになって消えないんですかね」
 遠くの景色を見つめながらそんなことをぼそっとつぶやくと、ずっと笑っていた瀬名先輩は完成した飛行機の先端で私の頬を刺した。
 鋭利な先端で刺されたので、私はすぐに頬を手で押さえて先輩を睨みつけた。
「痛っ!? 何するんですか!?」
「あ、そんな痛いんだこれ」
「痛いですよ! 想像つきますよね!?」
「そんなもんなんだよ」
「え……?」
 無表情なまま、瀬名先輩はふたつ目の飛行機を折り進める。
 言葉の意味が分からないまま頬を押さえて彼を見つめていると、瀬名先輩は気だるげに口を開く。
「あ、そんな痛かった?って……傷つけた側にしたらそんなもんなんだよ。他人の痛みなんかわかるわけねぇだろ」
「た、たしかに」
「忘れられなくて当然だ。俺も、思い出したら死にたくなるようなことばっか覚えてる」
 それは、家族とのことを言ってるんだろうか。
 瀬名先輩の記憶障害の理由になった核のことなんだろうか。
 どこまで彼に近づいていいのか分からなくて、聞くことができない。
 ……強そうに見える彼も、私と同じように、言葉の呪いを持っている。