「なに、怖いって言ったらストーブ消してくれんの?」
「それは、寒いから嫌なんですけど……」
「お前さ、俺のこと怖がってるふりして全然怖がってねぇだろ」
……はじめて、瀬名先輩の口角が少しだけ上がって、笑っているような顔を見た。
なぜ今笑うのだろうか。分からなかったけど、なんだか瀬名先輩は楽しげだ。
「こ、怖いですよ……。村主さんにも目をつけられてしまったようですし……」
「ああ、俺が桜木と会う用事あるって言ったからか」
「私は今までどおり、空気より目立たない存在で、そのまま卒業できることだけを望んでいるのに……」
「ノートごと、俺に忘れてほしい?」
忘れてほしいって言い方が正しいのか分からなくて、私は無言になった。
今、じつは私も少しだけこの時間が楽しく感じているのは、久々に人と話したからに違いないと、そう言い聞かせているところだったから。
おかしい。瀬名先輩が作りだす、冷たいんだか緩いんだか分からない空気感が、なぜか心地いいなんて。
瀬名先輩の瞳の色が、たまに優しく見えるから? 人と関わらなさすぎて、分からないよ。
そんなふうに戸惑ってる私の顔を覗きこんで、瀬名先輩は一言提案した。
「お前が俺の大切な人になればいい。そしたらお前のことも、ノートのことも、全部忘れてやるから」
「え……」
「お前は俺と思い出づくりしろよ。そしたらばあちゃんも報われんだろ。まあ、いい思い出になるか知らねぇけど、無ではないわけだ」
私がこの人の大切な人になれるなんてこと、ありえない。
真っ先にその言葉が口を突いて出そうになったけれど、私はなんだか寂しい気持ちになって黙り込んだ。……瀬名先輩の世界は、本当になにもないんだって。
瀬名先輩は、百パーセントただのヒマつぶしでこんなことを言ってるんだということは十分分かっている。
だけど、胸が少し軋むのはなぜ?
私と同じ、何もない世界で生きている人だから?
「瀬名先輩にとって……、私と過ごすことは、ヒマつぶし以外に意味あるんですか」
「……ないな。まあ、俺にとって大切な人つくるってことは、無意味なことだから」
……ストーブの火が燃える。
先輩のきれいな瞳に、火の色が写っている。
今、先輩は悲しいのか、諦めてるのか。
分からないから、じっと先輩の瞳を見つめていた。
「それは、寒いから嫌なんですけど……」
「お前さ、俺のこと怖がってるふりして全然怖がってねぇだろ」
……はじめて、瀬名先輩の口角が少しだけ上がって、笑っているような顔を見た。
なぜ今笑うのだろうか。分からなかったけど、なんだか瀬名先輩は楽しげだ。
「こ、怖いですよ……。村主さんにも目をつけられてしまったようですし……」
「ああ、俺が桜木と会う用事あるって言ったからか」
「私は今までどおり、空気より目立たない存在で、そのまま卒業できることだけを望んでいるのに……」
「ノートごと、俺に忘れてほしい?」
忘れてほしいって言い方が正しいのか分からなくて、私は無言になった。
今、じつは私も少しだけこの時間が楽しく感じているのは、久々に人と話したからに違いないと、そう言い聞かせているところだったから。
おかしい。瀬名先輩が作りだす、冷たいんだか緩いんだか分からない空気感が、なぜか心地いいなんて。
瀬名先輩の瞳の色が、たまに優しく見えるから? 人と関わらなさすぎて、分からないよ。
そんなふうに戸惑ってる私の顔を覗きこんで、瀬名先輩は一言提案した。
「お前が俺の大切な人になればいい。そしたらお前のことも、ノートのことも、全部忘れてやるから」
「え……」
「お前は俺と思い出づくりしろよ。そしたらばあちゃんも報われんだろ。まあ、いい思い出になるか知らねぇけど、無ではないわけだ」
私がこの人の大切な人になれるなんてこと、ありえない。
真っ先にその言葉が口を突いて出そうになったけれど、私はなんだか寂しい気持ちになって黙り込んだ。……瀬名先輩の世界は、本当になにもないんだって。
瀬名先輩は、百パーセントただのヒマつぶしでこんなことを言ってるんだということは十分分かっている。
だけど、胸が少し軋むのはなぜ?
私と同じ、何もない世界で生きている人だから?
「瀬名先輩にとって……、私と過ごすことは、ヒマつぶし以外に意味あるんですか」
「……ないな。まあ、俺にとって大切な人つくるってことは、無意味なことだから」
……ストーブの火が燃える。
先輩のきれいな瞳に、火の色が写っている。
今、先輩は悲しいのか、諦めてるのか。
分からないから、じっと先輩の瞳を見つめていた。