「ホラー映画嫌いってあれだけ言ったのに……」
「それもごめん」
「いつもやることが唐突で、謎の自信があって、気分屋で、私がどれだけ振り回されたか……」
「うん……、ごめん」
「お蔭で、私の高校生活、忘れられない思い出ばっかりできて……、ばあちゃんに報告しきれなかった……」
 そう文句を言うと、瀬名先輩はまた優しく「ごめん」とつぶやいて、私の頭を優しく撫でた。
 愛しいという感情が止まらない。
 この人を、大切にしたい。彼を傷つけるすべてのことから守ってあげたい。
 何も力がないくせに、そんなこと本気で思うんだ。
 強くなりたいという気持ちと、誰かを大切に思う気持ちがセットだなんて、不思議だ。
「琴音は……春みたいだ」
 私を抱き締めながら、瀬名先輩がひとり言のようにつぶやいた。
 どういう意味か分からず、先輩の胸の中で首をかしげると、彼はふっと笑ってから「なんでもない」と首を横に振る。
「え、気になるんですけど……」
「悪口じゃないから気にならなくてよし」
「ええ……」
 私が残念がるような声を出すと、瀬名先輩は何かを思い出したのか、ベッドの上に放り出していたトートバッグから何かを取り出した。
 バッグから出てきたのは、青くて小さな花の花束だった。
「焦ってきたから、何もお見舞いの品がないと思って、家の庭で摘んできた」
「え! これって、勿忘草……?」
 思いもよらぬプレゼントだ。
 淡く優しい青色に、見ていると心が癒されていく。
 高校生のとき、土手でブレスレットを作ったことを思い出しながら、花に見惚れている私に、瀬名先輩はふいにカメラを向けた。
「琴音、花もっと心臓の前に持ってきて」
「え、こんな感じですか……?」
「うん、そうそう」
 戸惑いながらも、私は勿忘草の花束を胸の中心に持ってきた。
 そして、そんな私を瀬名先輩がスマホでカシャッと写真に収めた。
 カメラに慣れていない私は、思わず目をつむってしまいそうになる。
 でき上がった写真を見ると、案の定目が半開きだった。
「こ、こんな写真撮って、どうするんですか……」
 嫌そうな声で問いかけると、瀬名先輩はそんな写真を大事そうに見ながら、待ち受けに設定していた。
「……この写真を見て、すぐに思い出せるように、お守り。たとえ、琴音のことを忘れてしまったときも」
「なにをすぐ思い出したいんですか?」