そのとき俺は、琴音のことを完全に忘れていたので、正直琴音がその場にいたのかどうかも覚えていない。それくらい、視界にちゃんと入っていなかったのだ。
 俺はあの日、琴音にいったいどんな態度を取っていたんだろう。
 まったく思い出せないことに、自分がますます許せなくなる。
『勝手だよ。今さら……。どれだけ琴音がショック受けたと思って……』
「ごめん……。本当に、それしか言えない。でも会いたいんだ」
 はっきりそう伝えると、村主はスマホの向こう側で沈黙した。
 琴音を忘れてから、もう四度目の春を迎えてしまったんだ。
 村主が怒るのも……当然だ。謝ること以外に言葉が浮かばない。
 でも、どうしても、もう一度琴音に会いたい。
 その一心で、村主の言葉の続きを待つと、彼女は重い口を開けて語りだす。
「……私、さっき先輩からの電話出たとき、病院か、もしくは琴音のお母さんからの電話かと思ったの。だから焦ってたんだよ」
「え……?」
「私は大阪の大学に進学して、琴音は東京の大学に進学したから、なかなか会えてなくて……。でもずっと、メッセージで連絡を取り合ってて、明日久々に遊ぶ予定だったんだよ……本当なら」
 病院か、琴音のお母さんから電話がかかってくる可能性があったということか……?
 それは、いったいどんな意味で……。
 俺は思わず、スマホを握る手に力を込めてしまう。
 村主の声がだんだんと震えていることに気づいて、徐々に頭の中が真っ白になっていく。
「ねぇ、どうして……、今日思い出したの……?」
「……村主……」
「どうして、今日、このタイミングで……」
「……琴音は今、どこにいるんだ」
「よりによって、数時間前に、琴音が事故に遭ったタイミングで……」
 途中から嫌な予感がして、見事にそれが的中してしまった。
 どうしてだ。どうして、いつもいつも俺は、大切な人を失ってしまうんだ……。
 簡単に自分の手のひらからすり抜けていくみたいに、俺はあと何度大切な人を失ったらいいんだ。
 何も言葉を発せないまま、奈落の底に突き落とされたような絶望感に陥っていく。
 琴音ともし、もう二度とこの世で会えなくなったら……。
 そこまで考えたとき、俺は強く首を横に振った。
「村主、病院の場所わかるか」
『え……? 今から行くつもりなの、先輩』