冬を越えてやってくる温かな春のように。
 この先も、ずっと、ずっと、きみは私の光だ。

side瀬名類

 どうして、今自分は泣いているんだろう。
 岡部に指摘されるまで、自分の目から涙が出ていることに気づかなかった。
 乱暴に指で目の付近を触ると、たしかに指が濡れている。
 何も悲しいことなんてないのに、いったいどうして涙腺が崩壊しているんだ。
 ……教えて。
 誰か、この涙の理由を教えてくれ。
 岡部は複雑そうな顔を浮かべながら、俺の顔を見つめていた。
『これ以上私から強引に追い詰めたら、類が壊れちゃいそうだから』と言って、岡部は俺の記憶を深堀りせずに、先に帰っていった。
 カフェに残された俺は、ただただ茫然自失としながら、壊れてしまった自分の涙腺を止める方法を探している。
 心の奥底で、誰かが俺を呼んでいる。
 コトネとは、いったい誰のことなんだ……。
 震える手でスマホを手に取り、先ほど岡部に見せられたアカウントを開く。
 自分の境遇とまったく同じプロフィールが記載されており、投稿は約三年前で途絶えている。
 スクロールして投稿を流し見ると、そこに写っているのは同じ女子のうしろ姿ばかりだ。
 素っ気ない文章と、本当にただ記録のためにだけ撮っただけの写真たち。
 視聴覚室、音楽室、おしゃれなカフェ、一面に咲く勿忘草……。
 そのどれも、自分にはまったく身に覚えのない思い出ばかりで。
 でも、そのどれもが、一度はやってみたいと思うような体験ばかりだった。
 味気ない文章も、自分が書いたんだと言われたら、しっくりきてしまう。
 まったく覚えていないのに、どうしてなつかしい気持ちになっているんだ。
「分からねぇ……」
 頭が、割れるように痛い。
 本当にこのアカウントは俺のものなんだろうか。
 このコトネという女生徒と、俺はどんな日々を過ごしていたんだろうか。
 すべてが真実だとしたら、今、彼女はどんなふうに過ごしているんだろうか……。
 いや、そもそもこのアカウントが本当に俺のものなのか、調べることから始めよう。
 記憶のない部分は、すべてを自分で確認して、もう一度積み上げていかなければならない。
 俺はアカウントの設定画面に移ると、パスワードの再発行ボタンを押した。
 再発行パスワードは、登録時のメールアドレスに送られてくる。