聞けずに固まっていると、村主さんがすぐに周りのクラスメイトに聞き出してしまった。
「何見てんの?」
 ひょこっと首を傾けて、近くにいた女子のスマホ画面を眺める村主さん。
 そして、「何これ。琴音のうしろ姿じゃん」と、言ってのけた。
 その言葉に、クラスメイトはさらにザワついて、ひとりの女生徒が確かめるように私に同意を求めてきた。
「ねぇ、やっぱりこれ桜木さんだよね?」
 スマホの画面には、私が勿忘草を摘んでいる写真があった。
 何かSNSにアップされているようで、私は驚きのあまり言葉を失う。
 だって、このとき一緒にいたのは、間違いなく瀬名先輩だけだ。
「これ、昨日から、“泣けるSNS”だって、拡散されてて……、投稿者は顔出ししてなくて不明なんだけど、もしかしたら瀬名先輩なんじゃないかって噂が流れてて……」
 その言葉に、村主さんは私に問い詰めてきた女生徒のスマホを強引に奪い取った。
 そして、スクロールしてその画面を必死に読んでいる。
 しばらく読んでから、村主さんは震えた手で、私にスマホを向けた。
「琴音。このアカウント……、検索してみて」
「え……」
 戸惑いながら、私は自分のスマホを取り出し、言われるがままにそのアカウントを検索する。
 拡散された記事もつられて検索に出てきて、『どこまで実話? 高校生男子の切ない恋の記録が話題』という見出しがついている。
 ドクンドクンと高鳴る胸を片手で押さえつけながら、私はゆっくりそのSNSアカウントを開く。
 するとそこには、瀬名先輩と過ごした日々のすべてが、記録されていた。
「あ……」
 ―――衝動的に、大粒の涙が一粒零れ落ちた。
 私は泣いているところを誰にも見られたくなくて、とっさに教室を飛び出す。
「琴音……!」
 村主さんが心配そうに私の名を一度読んだけれど、ひとりでいたいことを察してくれたのか追いかけてはこなかった。
 私は走った。瀬名先輩と、はじめて会話をした、あの昇降口へ。
 あの日はたしか雪が降っていて、空も地面も真っ白で、世界の輪郭がぼやけて見えていた。
 でも、瀬名先輩に出会ってから、いろんなものが見えるようになったんだよ。
 ずっと自分で自分に呪いをかけていたこと。
 おばあちゃんが本当に言いたかった思い。
 はじめて見た、母親の涙。
 自分のことのように悩んでくれる友人。