昔はもっと周りの空気が張りつめていて、常に自分が一番でいたいというオーラがにじみ出ていたような印象だったから。
「……私ね、類といたら、特別な人間になれる気がしてたの」
「なんだそれ」
 突然、自嘲気味に笑みをこぼした岡部に、俺は眉をひそめる。
 "確認したいこと"がなんだったのか、すぐに聞きたい思いだったが、俺はそのまま岡部の昔話を流し聞くことにした。
「学校の皆が注目してる類と一緒にいたら、自分も強くなれる気がして……。根拠もない自信で周りを威嚇して、近寄りがたい自分は強くて特別なんだって、ずっと勘違いしてた」
「……たしかに、無駄に荒れてたな」
「たぶん、クラスメイトで私のことを好きな子、ひとりもいなかったと思うんだよね。卒業後クラスの集まりにも誘われなかったし。そんで、運悪く同じ大学、同じ学部に行ったクラスメイトがいてさ。その子に素行が悪かったって学部内で噂流されて……、まあ全部事実なんだけど。これが因果応報かーって、思った」
「友達作りに苦戦したってことか」
「学内ではね。サークルでは普通にいい子ちゃん演じてます」
 いつも毅然としていた岡部だったが、まさか友人関係で躓いていたなんて意外だ。
 俺はとくに慰めの言葉も何も言わずに、再びコーヒーを口に運ぶ。
 何も思いやりのある相槌を返していないのに、岡部はまだ話し足りないようで、懺悔するように俯き、言葉を吐き出す。
「もうひとつ因果応報といえばの話で、話がすごく飛ぶんだけど、私最近彼氏と大喧嘩してさ。向こうが社会人でなかなか連絡取れなくて、不安になったことが原因なんだけど」
「本当に飛ぶな」
「ただただ話し合う時間が欲しくて、電話を何回かかけたわけ。そしたら、"普通にメンヘラ無理だから距離置こう"って言われたの」
 岡部は怒りに満ちた声で「どう思う?」と問いかけてきたが、俺は何も言わずに彼女の言葉の続きを待った。
「その四文字で自分の気持ちを片づけられたことがすっごくムカついて……、何か言い返そうとしたんだけど、急に気持ちが冷めていってさ。あ、これ、私がよく友人に笑いながら言ってたことじゃんって」
 岡部はグラスを両手で握りしめながら、自分に呆れたような表情で、ひとつ大きなため息をついた。
 しばし沈黙が続いて、岡部は自分の気持ちを一度落ち着かせるように、飲み物をひと口飲んだ。