思い出そうとするとズキッと頭に痛みが走り、何かに飲み込まれそうな間隔に陥るから、ただ怖くて考えたくないだけだ。
 一年生のときに、記者に追いかけられたりしたせいだろうか。
 俺は人一倍、"過去"を聞かれることに敏感になってしまった。
「あ、また岡部ちゃんからメッセージ来てるよ」
「お前、人のスマホ盗み見んのやめろ」
 志賀の言葉に、もう一度スマホを確認すると、そこには『明日の十九時、このカフェで勉強してるから来れたら来て』というひとこととともに、お店のマップが共有されていた。
 岡部のことだから、ただお酒を飲みたいだけかと思っていたが、そういう訳ではなさそうだ。
 志賀の言うとおり、"ちゃんと話したいこと"があるんだろうか。
 俺は少し考えてから、ちょうどカフェの近くで説明会もあることだし、行くことに決めた。

「よ、類。久しぶり」
 新宿駅から少し歩いたところにある地下のカフェで、黒髪ボブ姿の岡部が座って待っていた。
 彼女もリクルートスーツ姿なので、就職活動の帰りだったのだろうか。
 記憶が金髪のイメージで止まっているので、俺は一瞬岡部だと認知できなかった。
 俺は薄い春コートを脱いでハンガーにかけてから、岡部の前の席に座って、アイスコーヒーを注文する。
「久しぶりだな」
 俺がそう言うと、岡部はじっと俺の顔を見つめてから、「相変わらず顔だけはいいね」と恨めしそうに言ってきた。
 俺は呆れた顔でその言葉を無視し、運ばれてきたアイスコーヒーをひと口飲む。
 岡部も、顎先で切りそろえられた髪の毛を耳にかけ、飲み物に口を付ける。
 しばし沈黙が流れてから、岡部はひとり言をつぶやくように「来てくれると思わなかった」とこぼした。
 何も言わずにそんな彼女を黙って見つめていると、岡部は昔を懐かしむように語りだした。
「……放火事件に類が巻き込まれたって聞いて、本当に驚いたけど、まずは無事でよかった。連絡も返ってこなくて、状況が分からなかったから」
「……ごめん、スマホ焼かれて買い換えてた。メッセージアプリも再登録したから」
「あ、大丈夫。たぶん、そうなんだろうなって思ってたから」
 たしかに、菅原の言うとおり、岡部の雰囲気が高校時代のときよりだいぶ丸くなっている。