新幹線で東京駅まで向かうと、私達は山手線に乗り換えて瀬名先輩がいる大学を目指した。
 村主さんはしょっちゅう東京まで遊びに来ているらしく、慣れた様子だ。
 一方、私は東京なんてもちろんはじめてで、なんなら友人と遊び目的で電車に乗ったことすら初体験で。
 不安な気持ちを抱えたまま、瀬名先輩がいるキャンパスがある最寄り駅まで着いてしまったことに、心臓が飛び出しそうなほど、どぎまぎしていた。
 そして、今、村主さんはそんな私を呆れた様子で見ている。
「ちょっと……そんなんで大丈夫?」
「大学って、そんなに簡単に入れるほどオープンなのかな」
「今日たまたまオープンキャンパスの日らしいよ。ていうかその前に、あんなに大きい大学で、瀬名先輩と出会えること自体奇跡だけどね」
「そ、そっか……! そう思うと、少し気持ちが楽になってきた」
「いや、会えなきゃ意味ないでしょ。菅原先輩から学部聞いておいたから、ぬかりなし」
 自信満々にそう言うと、村主さんは大学を目指して私の腕をぐいぐい引っ張り、歩いていく。
 今、私の頭の中には、不安の渦しかない。
 勢いで来てしまったけれど、もし瀬名先輩がまったく思い出してくれなかったら……。
 私は瀬名先輩とまた、いちから関係を築けるだろうか。
 目を閉じると、勿忘草を摘んだ光景が蘇り、今瀬名先輩にあの記憶は欠片もないのだと思うと、胸が痛んだ。
 渋谷駅から坂道をのぼったところにある大学は、想像以上に大きくて、どこが入口なのかも分からないほどだった。
 きらびやかな生徒たちに混じって門をくぐると、めまいすらしてくる。
 瀬名先輩は、こんなにきらびやかな場所で学んでいたんだ……。
 自分の知らない世界を目の当たりにして、私は茫然としていた。
「すみません、オープンキャンパスの説明聞きに来たんですけど、文学部って普段どの何号館で授業受けてますか?」
 棒立ちしている私をよそに、村主さんはそうそうにオープンキャンパスの係の生徒に聞き出していた。
 あまりの行動力の高さに驚いているうちに、村主さんはあれよあれよと言う間に情報を掴んでいく。
「琴音。いる可能性高いところ聞き出したから行こう。会えるかもしれない」
「村主さん、ありがとう……」
 彼女がいなかったら、こんなすぐに情報を掴むことができなかっただろう。