・【仕掛け】


「じゃあアタシがいいと言うまで、廊下に待機しててやー」
 そう言ってイッチンだけ教室の中へ入っていった。
 ということは急に男子が女子のところへ入ってくるパターン?
 それって……と思ったところでトールが小声で口にした。
「まさか着替えかっ……っ」
 博士が少し大きな声で、
「そんな、大胆な、こと、あるのか」
 いや
「確かに着替えているところに主人公がやって来て『キャッ』みたいなことあるけども、こうやって狙ってやることはさすがに無いでしょ」
 と”平静を保つために”そう言った僕だが、やはり心の中は揺れていた。
 いやだって僕の背中で揺れていたような人間だから、もしかしたらそんなことだってやるかも、と一瞬脳裏をよぎった刹那、トールが鼻息を荒々しくしながら、
「でもよっ、イッチンがさっき”アタシはアンタら三人にならいくらでもおっぱい貸し出せんねん”って言ったじゃん」
 それに博士が生唾をゴクリと鳴らしてから、
「めちゃくちゃ、丸暗記、していたな、アタシはアンタら三人にならいくらでもおっぱい貸し出せんねん、て」
 いや!
「博士もその部分すっごい早口で言い切った! 博士はもう覚えているどころか早口までできてる!」
「それぐらい、焦り、喜んでいる、という、わけだ」
「焦り喜んでいるなんて言葉無いよ! 変な言葉をここで作らないでよ!」
 と僕がツッコむと、トールが人差し指でシーのポーズをして、
「理央っ、興奮しすぎだぞっ」
「いや興奮して大きな声を出していたわけじゃないけども……」
 そう言いつつも、興奮していたかもしれないと思い、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
 いやでも実際、着替えって、その着替えだったら、ちょっ……。
≪≪≪!ヤバイな!≫≫≫
 きっと今、三人の心の中は一致しただろう。
 一致でエッチだろう。
 全員分の心臓の高鳴りが聞こえそうなほどの感じ。
 ドキドキ・トライアングルだ。
 もはやドキュドキュいってる。
 思考回路がドリルのように回転して、めちゃくちゃエッチなこと考えてる。
 そのタイミングでイッチンが教室の中から、
「ええでー! 来てやー!」
 と叫んだ。
 僕たちは顔を見合わせ、意を決して、教室の扉を開けると、そこには……!
「「「いないっ!」」」
 確かに教室から声が聞こえたし、教室から出てきた形跡は無いのに、イッチンはいないのだ。
 最初に恐怖の声を上げたのはトールだった。
「ひぃっ! オバケっ!」
 オバケなんて、と思ったけども、一瞬何かハッとした僕。
 いやでも思い出せない。
 でも何かを思い出そうとしている。
 何なんだ、僕は一体何を思い出そうとしているんだ、と思ったその時、博士が冷静にこう言った。
「どこかに、隠れてるじゃ、ないか」
 と言った瞬間に、
「わぁぁぁああああああああああああ!」
 そのとてつもないデカい声にトールは勿論、僕も博士も驚いてしまった。
 トールに関していえば、その場に尻もちをついた。
 声がしたほうを見ると、掃除用具入れからイッチンが出てきていて、驚いた僕たちを見たイッチンが、
「いや驚きすぎやて! 焦りすぎや! アハハハハッ!」
 と快活に笑った。
 いやイッチン、博士が隠れていると言った瞬間に出てきたから、イッチンも焦っていたでしょ。
 それをごまかすようにデカい声で驚かしたんでしょ。
 全くもう、と思いながら、僕はイッチンの近くに近付きながら、
「イッチン、これはラブコメじゃないよ」
 と言うと、イッチンが急に僕の腕を掴んで、強引に僕を掃除用具入れに引き入れて、そのままドアを閉めたのだ!
「でもこれはラブコメちゃう?」
 イッチンの吐息が僕の顔に掛かるくらいの距離で、何だか柑橘系のさわやかな香り。
 さらに体温も感じるような近さで、温かくて、何だかクラクラしてくる。
 触れてしまう太ももや二の腕も柔らかくて、何故か安心してしまって、寝てしまいそうだ……と思うとすぐにイッチンの笑顔が僕の目に飛び込んできて、興奮して心臓がドキュドキュいってしまう。
 もう体がどういう状態か分からず、混乱していると、掃除用具入れのドアが開き、そこにはトールがいて、
「交代だっ!」
 と叫んだ。
 いや交代とか無いでしょ、とか思っていると、普通にイッチンがトールを招き入れ、さらにそのあと、博士を招き入れていた。
 イッ、イッチンって! みだらな人かもしれない! 操られないようにしなきゃ!
 とか失礼なことを考えていると、イッチンも掃除用具入れから出てきて、
「やっぱり狭い空間で二人っきりってドキドキするわぁ、でもそれがアンタらやからかなぁ?」
 と舌を出して笑ったので、これはもう完全にソレだ、操られないようにしなきゃと思った。
 いや僕の操られないようにしなきゃ、って何?
 自分で思って自分でツッコんじゃったけども。
 僕のみだらな人へのイメージ何?
 まあ漫画だろうけども。翻弄されるイメージなんだろうけども。
 とか考えていると、どこからともなく、
「ピーーーーーーーーーーッ!」
 という音が鳴って、脳内に放送禁止用語がっ? とか意味分かんないこと浮かんだら、普通に博士のホイッスルだった。
 トールが少し焦りながら、
「博士っ、一体どうしたんだっ」
 と言ったら博士がハァハァ言いながら、
「たまらん、のだ、ずっと」
 興奮しすぎてホイッスル吹くって、もうホイッスルが近い存在になりすぎてるじゃん、とか思っていると、イッチンが、
「じゃあ次はホイッスルいじりやな」
 と言って、自分でうんうん頷いていた。
 いやホイッスルいじりって何?