きたからか俺のベッドで一緒に寝たがる。けれど今は換毛期。春ほどではないけれど毛が抜
けまくりのドルーをベッドに入れるのはさすがに嫌で、寝室には入れないようにしていた。
するとドルーは人間に姿を変え、俺が寝てからベッドに潜り込んでくるという知恵を働かせ
るようになったのだ。

 たしかに人間になれば抜け毛はないけどさ、人型のドルーってデカいから一緒に寝るとベ
ッドが狭いんだよ。それにこうやって布団全部持ってっちゃうし。ハスキーだから寒がりで
はないくせに、ドルーは毛布や布団にくるまるのが好きなのだ。

 俺は新しく出した布団に潜り直すと、ベッドの三分の二を占領しているドルーの体を尻で
少し押しやってから、再び瞼を閉じた。

 ――そういえばさっき、なんか夢を見た気がする。なんか懐かしくて切ないような……。
 夢の内容を思い出そうとしたけれど思い出せず、落し物のように残った感情だけが、眠り
に落ちるまで俺の胸を燻らせ続けた。


「久宝さん、退院されたよ」

 ある日のロケの帰り、俺を家まで送る車中で運転席の四谷さんがそう言った。

「そうなんですか? よかったですね。仕事の方はいつから復帰するんですか?」

 助手席の俺はいじっていたスマホから目を離し、四谷さんの方を向く。けれど、退院とい
うおめでたい話にも拘らず、四谷さんの表情はどこか険しかった。

「仕事は……もう無理かな。社長とマネージャーが見舞いに行ったけど、久宝さん、ふたり
のこと思い出せなかったって。ご家族とも話し合ったけど、復帰は望んでいないそうだ」

 予想以上に重い内容に、俺はたまらず閉口した。
 久宝桜子さんは俺の事務所の大先輩にあたる女優だ。御年七十六歳。毎日ランニングとヨ
ガを欠かさない健康ぶりで、この年まで第一線で活躍されてきた。去年も映画に主演された
ばかりで、老いなど感じさせない活躍ぶりだった。

 そんな久宝さんが、今年の春に脳出血で倒れた。きっと誰もが「まさか久宝さんが!?」
と驚きつつも、加齢という抗えない敵に空恐ろしさを感じたことだと思う。
 一命はとりとめたものの久宝さんの状態は良いとは言えないもので、長期の入院とリハビ
リが必要となった。ご家族の希望で病院へのお見舞いは身内以外受け付けていなかったこと