「しっかし、奏多の恋人だと思ってたイケメン外国人がまさかドルーだったとはなあ。すっぽんぽんで出迎えてたのも、まあ納得っちゅーか」
「……誤解が解けてよかったです」
「あ。別にドルーが犬だからって恋人じゃないってワケじゃないのか。人間になれるんなら、もとが犬でも関係ないもんな」
「だから恋人じゃないってば!」
けっきょく誤解が解けたのか解けてないのかよくわからないけど、飛鳥さんは上機嫌そう
に缶ビールを煽ってソファーにドスンと座り直した。テーブルに置かれたビールの空き缶を
見て一瞬ヒヤリとした俺に、飛鳥さんは「心配すんな。ドルーには飲ませてねーよ」と笑う。
テーブルを挟んで飛鳥さんの向かい側のクッションに腰を下ろすと、ドルーも隣に座って
俺に寄り添ってきた。今日のドルーはちゃんとバンドカラーシャツとアンクルパンツを着て
いる。最近の練習の甲斐あって、洋服もひとりで着られるようになったのだ。
「聞いたぞ、ドルーに人間らしくなる訓練してるんだって?」
そう言って飛鳥さんはまだ蓋を開けてない缶ビールを俺に差し出してきた。ありがたく受
け取ってプルトップを開け、ひとくち飲む。九月になって夜はだいぶ秋めいてきたけど、ビ
ールはまだまだうまい。
「人間らしくなるというか、人間らしく振舞うというか……。今のままじゃ姿は人間でも中
身は犬のまんまなんで、ひとりで外に出したりできないんですよ」
「あー、わかる。こいつ、すぐ匂い嗅ぎたがるもんな。犬のときは気にならないけど、桁外
れのイケメンの状態でやられると百二十パーセントヤバいやつにしか見えなくてウケる」
「笑いごとじゃないですよ……。いつもひとりで留守番させてるの可哀想だから、人間の状
態でなんとか一緒に行動できないかと思って頑張ってるんですから」
「ふーん? そういうことなら俺も協力してやるよ。ドルーを遊びに連れていったり、なん
ならうちに泊まりに来させても構わないし。うち賃貸だから犬のままじゃ無理だけど、人に
なって来るぶんにはいつでもオッケーだから」
「えっ! 本当ですか」
これは思わぬ申し出だった。協力者ができるなら、こんな心強いことはない。今までひと
りで抱えていたから無理が生じていた部分もかなりあったと思う。
「ドルー、今度人間の姿でうちに遊びに来いよ。な?」
身を乗り出して尋ねた飛鳥さんの質問に、ドルーは「カナタと一緒に?」と小首を傾げて
尋ね返した。