二時を過ぎたというのに、やけににぎやかだ。ていうか、誰と話してるんだ? 

 ……まさか。

「あっ、飛鳥さん!?」

 焦ってリビングのドアを開けた俺は、そこで驚愕の光景を目の当たりにした。

「おう! おかえり、奏多」
「カナタ!」

 なんと飛鳥さんと人型になったドルーが、仲よく肩を組んで笑い合っていたのだ。どうや
ら飛鳥さんは酔っぱらっているらしい。
 唖然としたまま立ち尽くしていると、素早く立ち上がったドルーが俺に向かって飛びつい
てきた。

「カナタ、おかえりなさい! 今日は寝ないで待ってたぞ!」
「うわぁああっ」

 人間になったときのドルーは身長百九十センチ近い大柄だ。勢いよく抱きつかれれば、俺
は受けとめきれずそのまま後ろへ倒れてしまう。
 ドテーンと派手な音をして倒れた俺の上に跨りながら、ドルーは「カナタ大丈夫か!?」
と鼻がふれるまで顔を近づけてくる。いいからどいてくれ。

「お前ら本当に仲がいいなあ。ってかドルーは奏多のこと好きすぎだろ」

 缶ビール片手に飛鳥さんが楽しそうに目を細めながら、こちらへやって来た。俺はドルー
を無理やり押し退けて、上半身を起こす。

「ど、どういうことですか!? なんで、ドルーと……!?」

 完全にテンパっている俺を、飛鳥さんはその場にしゃがみながら「まあ、落ち着けって」
と宥める。すると俺の隣に正座したドルーが、しおらしく「ごめん、カナタ。飛鳥に人間に
なるとこ見られた」と、謝った。

 ことの顛末はこうだ。いつものように散歩に連れていってもらったあと、ドルーは部屋で
ひとり人間になる練習をしていたそうだ。ところがこの日はうちに泊まるつもりだった飛鳥
さんは帰っておらず、ちょうどリビングでドルーが人間になる瞬間を目撃してしまったのだ
という。

「いやいや、本当にビビったぜ。俺、頭おかしくなっちゃったかも思ったもん。でもまあ、
世の中不思議なことだらけだしなあ。ユーレイとか宇宙人とか預言者とか。犬が人間になる
くらい、アリ寄りのアリっしょ」
「すげーメンタルしてますね、飛鳥さん……」

 俺だってドルーが人間になることを受け入れてるんだから人のことは言えないけど、それ
でも飛鳥さんの楽観ぶりには驚かされる。