「わかった、わかった。まずはちゃんとご飯食べてからな」
「うん!」

 食事を終えて食器を片付けてから、俺はあぐらをかいた足の上にドルーを寝そべらせて、
スリッカーブラシで体毛を梳いてやった。鈍色の毛が艶を取り戻していく様は、ドルーの元
気を取り戻しているみたいに見えた。
 ブラッシングされている間、ドルーは気持ちよさそうに目を閉じていた。、ドルーはブラ
ッシングが大好きだ。昔はあまり好きじゃなかったけど、換毛期の頃から慣れたのか、最近
では自分でブラシを咥えてきておねだりすることもある。

 背中もお腹も手足まで時間をかけて梳いてやると、ドルーはすっかりご機嫌になった。フ
ワフワになったお腹を撫でると、口をカパーと開けて目を細めてものすごく幸せそうな顔に
なる。

「あはは、ドルーの甘えんぼ。まだ時間ちょっとあるけど、どうする? ボール遊びもする?」

 今日は早起きもしたし、昼からスタジオ入りで四谷さんが迎えに来てくれるので、時間に
ちょっと余裕がある。支度を始めるまであとまだ一時間くらいあるなと思いながら尋ねると、ドルーはまたしても目をキラキラ輝かせて「ボール!」と飛び起きた。――ところが。

「……お昼寝。お昼寝する、カナタと」

 ドルーはそう言って、起きた体を再び伏せさせた。

「え? いいの? ドルーの好きなボール遊びだよ?」
「いい。カナタと一緒に寝たい」
「……? そう? ならいいけど」

 不思議に思いつつ、俺はラグの上でドルーと寄り添って寝そべった。アラームを一時間後
にセットして目を閉じると、勝手に大あくびが零れた。
 あっという間に眠りに引き込まれそうになりながら、俺は自分の体が睡眠をとりたがって
いたことに気づく。そりゃそうだ。昨日から撮影がスムーズになったとはいえ、休憩中にこ
まめに仮眠しているとはいえ、相変わらず睡眠時間は足りていない。

 ドルーがボール遊びよりお昼寝したがってくれてラッキーだった……、ウトウトした頭で
そんなことを考えていたけれど、それが違うと思い直したのは、もう夢に半分たゆたってい
るときだった。

「お前……俺に気遣ってくれたんだろ……馬鹿だなあ……」

 そう言って隣のドルーの体を撫でたのは、夢かうつつかわからない。ただわかるのは、俺もドルーも相手を思いやるという気持ちを学んだってこと。ずっとずっと一緒に生きていくために、大切なこと。

 ――でも。飼い犬に気を遣わせるなんて、俺って甲斐性なしだなあ、なんて自省もちょっぴり抱きつつ。今日のところはドルーの優しさに甘えて、ゆっくりと眠ることにした。