動物病院の入院室のケージの中、でドルーはぐっすりと寝ていた。先生が言うには、脱水
症状を起こした後だからまだ体力が戻ってないそうだ。そう聞いたせいか、寝顔もなんだか
ゲッソリして見える。
ケージ越しにしばらく眺めていると、ドルーは鼻をピクピクさせてゆっくりと瞼を開いた。
どこかトロンとした青い双眸が俺を映す。
「ドルー……大丈夫か?」
小さく声をかけると、ドルーは吐息とも声ともわからない音でかすかに鳴いた。それから
しばらくぼんやりとこちらを見つめて、「カナタ……?」と、俺にしか聞こえない声で答え
た。
「ドルー、あのな……」
口を開きかけて、言葉に詰まった。謝って仲直りしようと思っていたのに、伝えたい言葉
がありすぎて何から話しだせばいいかわからなくて。するとドルーはかぼそく消えそうな声
でキュ~ンと鳴いてから、つらそうに目を細めて言った。
「……ごめんなさい……。オレ、カナタのこといっぱい困らせた……。もうしないから、嫌
いにならないで……」
「――ば、馬鹿っ!」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を手で押さえる。けれど感情は抑えきれず、ボ
ロボロと涙が勝手に出てきてしまった。
「謝るのは俺の方だよ。本当に本当にごめん……! ドルーは約束を守ってずっとお利口で
いてくれたのに、俺が全部悪かったんだ。ドルーはなにも悪くないよ。あんなにストレスが
たまるほど我慢ばっかりさせちゃってごめんな。苦しい思いさせて、本当に本当にごめんな」
「……オレ、カナタと一緒に暮らしてもいい……?」
「当たり前だろ! っていうか俺がドルーと一緒じゃなきゃ嫌だよ! こんな最低な飼い
主で、三下り半突きつけられても仕方ないけど……でも、お前と離れたくない。これからは
お前だけに我慢させないよう、もっと考える。なんでもする。だから……俺と一緒にまた暮
らしてほしい」
まるで女房に出ていかれた亭主みたいで情けないと我ながら思う。けど、それでも構わな
い。精一杯の気持ちが伝われば、それで。
ドルーはクーンと甘えた声で何度も鳴いて、それ以上は喋らなかった。潤んでいるように見える青い瞳が、ジッと俺を見ている。
ケージに手をあてると、ドルーは鼻面を寄せてクンクンしたあと手のひらを舐めてきた。それはくすぐったいけど心地よくて、温かくて。俺は時間の許す限り、それを受けとめ続けた。