藍くんが小さく「う……」と呻く声が聞こえた。すぐに自分も当てはまると省みることが
できる辺り、彼はえらいと思う。

「お互いをよく知るために喧嘩が必要なことも時々はあるけど、でもやっぱ、俺は嫌だな。
すごく大切な友達を傷つけてしまった。今回は助かったけど、でももしこのまま二度と会え
なくなってたら、俺は一生後悔した。……ううん、助かっても同じだ。あいつをあんなつら
い目に遭わせたことを、俺は一生後悔して生きるよ」

 膝に顔を突っ伏したまま独白のように語った俺の頭を、そっと藍くんの小さい手が撫でて
きた。

「泣くなよ、奏多くん。友達、助かったんだろ? だったら謝って仲直りしろよ。本当は友
達のこと大切に思ってるんなら、きっとまた仲良くなれるよ」

 いや、泣いてないけどね。
 でも藍くんの手も言葉も優しくて、俺はちょっと胸が熱くなった。泣いてないけど。

「今日、撮影終わったらお見舞いに行くの?」
「今日は無理かな。校庭で撮影のあとスタジオ撮影もあるし。病院、間に合わない」
「校庭の撮影が早く終わればスタジオ撮影までちょっと時間空くだろ? 行ってきなよ。早
く仲直りした方がいいって! 撮影が早く終わるように俺も協力してやるからさ」

「えっ?」と顔を上げると、俺の隣で藍くんはスクッと立ち上がった。その顔はさっきより、だいぶ大人びて見える。

「琥太郎にも言ってくる。奏多くんを病院に行かせるために、今日は一発撮り目指そうなっ
て!」

 目をまん丸くして瞬きを繰り返す俺の瞳に映った藍くんは、少し恥ずかしそうに肩を竦め
て笑った。

「ついでに……俺も琥太郎に謝ってくる。奏多くんの話聞いてたら、俺も後悔するの嫌だな
って思って。……いっぱい周りに迷惑かけちゃったし、ちょっと遅いかもだけど」
「……! 遅くない、全然遅くないよ!」

 思わず叫んだ俺の言葉に、藍くんは「ありがと!」とひまわりの花のように破顔して、ロ
ケバスに向かって走り出した。そして一度足を止めて振り返ると、「奏多くんも、絶対に今
日中に仲直りしろよ! 約束!」と叱咤激励を飛ばしてから、走り去っていった。


 十五分後。ようやく雲が切れて快晴となった空の下、再開された撮影は驚くほど順調に進
んだ。

 宣言通り、藍くんと琥太郎くんはミスすることなく一発撮りをキメた。さっきまでのふたりとまるで別人だと、監督もスタッフも琥太郎くんのお母さんたちもみんな喜んだ。