少々俺の株が下がった気もするけれど、まあいい。藍くんは興味深そうに俺の話に食いつ
いてきた。

「なんで? 奏多くん、そいつと仲悪いの? 嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。大好きだ。すごく大切で、世界で一番の友達だと思ってる」
「じゃあなんで? なんで大好きなやつにそんなひどいことできるの?」

 子供の言葉はストレートだ。大人と違ってオブラードに包んだりしない。藍くんの言葉は
俺の心にビシバシと刺さって、嫌でも自分の悪いところと向き合わされる。

「本当だよなあ。自分でも不思議に思う。でもひどいこといっぱいしちゃったんだ。俺が疲
れててテンション低いときでも笑顔で話しかけてくれたのに。ふたりで分け合わなくちゃい
けない苦労を押しつけても、『我慢する』って耐えてくれてたのに。俺は疲れてる自分が一
番偉いんだって、勘違いしちゃってたんだ。俺は仕事して疲れてるんだから、約束守れなく
ても許されるって……めちゃくちゃ最低な考え方してた」

 言ってて自分が嫌になる。俺ってもしかして結婚とかしちゃいけないタイプじゃない? 
己の内に芽生えかけていた亭主関白の芽を、物理的に引きちぎって遠くへぶん投げちゃいた
い衝動に駆られる。
 藍くんの「うへ~……。奏多くんヤバい。ドラマに出てくる悪い父親みたいじゃん」とい
う素直なドン引きが俺をますます自己嫌悪に突き落とし、今度はこちらが抱えた膝に顔を突
っ伏してしまった。

「ヤバいよね……だから今めちゃくちゃ反省してる。そいつ、俺と喧嘩したストレスのせい
でぶどう……病気になっちゃって、あやうく死ぬところだったんだ。今も入院してる。苦し
そうに何度も吐いてる姿見て、俺、泣くほど後悔したよ」

 藍くんは顔をサッと青ざめさせて「えっ! 喧嘩のストレスで死ぬこともあるの!?」と
立ち上がった。「琥太郎くんは大丈夫だと思うよ」と答えてあげると、藍くんは「本当に…
…?」と言いながらも、再び座り直した。

「――今だから反省できるけどさ、でも昨日までは本気で自分が悪くないと思ってた。言い
訳にしかならないけど、疲れてたり寝不足だったりカッとなったりすると人間って間違った
考えや行動を起こすことがあるんだ。大人も子供も関係ない。たぶんけっこうそういう人っ
ている」