「琥太郎くんはなんて?」
「……ズルじゃないって。琥太郎の学校ではバグ技はOKってルールだからズルじゃない
って。でも! 俺の学校ではズルだもん! だから琥太郎の学校はズルの集まりだって言っ
たら、『年下に負ける藍は下手くそでダサい』って……それで俺すごく怒って、『お前みたいな演技下手くそで棒読みなやつに言われたくない』って言ったら、琥太郎、泣いちゃって……」

 俺は思わず「あーあ」とあきれ声を出しそうになるのを、あやうくこらえた。子供の喧嘩
は容赦がない、どちらも言っちゃいけないことの連発だ。ゲームのいざこざだけだったら修
復も早かっただろうけど、藍くんは年上としてのプライドを、琥太郎くんは役者としてのプ
ライドを傷つけられて、お互いに相手を許せなくなってしまったのだろう。

「お母さんやマネージャーには言った?」
「言うわけないじゃん」

 だよね、と相槌を打って、愚問だったなと思う。叱られそうなネタを、わざわざ大人に報
告するわけがない。琥太郎くんもきっと同じだ。

 けれど、琥太郎くんは藍くんに言われた言葉が原因で演技に自信がなくなり台詞が出てこ
なくなり、藍くんはそんな琥太郎くんに罪悪感を覚えて演技に集中できなくなってしまった
のだ。その結果、撮影現場には多大な迷惑が掛かっている。大勢の人を巻き込んで。

 これはもう、子供の喧嘩だからと楽観視して放っておくわけにはいかない。おせっかいも
あるが、これ以上俺の貴重な睡眠時間を削られるのはごめんだ。
 けれど、ふたりに仲直りしろと命じたところで解決するとも思えない。形ばかりの仲直り
には意味がないのだから。

 俺は空を仰いでフーッと嘆息した。頭上はまだまだ曇天模様。少し長話をする時間くらい
は、ありそうだ。

「偶然だね。俺も昨日、友達と喧嘩したばっかだよ」

 ひとりごとのように呟くと、藍くんが膝に突っ伏していた顔をパッとこちらに向けた。

「奏多くんも喧嘩するの? 大人なのに? なんで?」
「大人だって喧嘩ぐらいするよ。ってか、大人ってそんな立派なもんじゃないよ。喧嘩の原
因だってくだらないし。俺がそいつとの約束破りまくってたくせに『うぜえ』って逆切れし
ちゃったから、そいつもブチ切れちゃったんだ」
「えー! ひどくない? 奏多くんってそういう人だと思わなかった」