「ドルー! しっかりしろ! 今病院に連れていってやるからな!」

 震える手でドルーの体に大型犬用の抱っこ紐を通して、両腕で抱きかかえた。脱力してい
るドルーは半端なく重たいけれど、弱音を吐いている場合じゃない。
 玄関を出ようとして、俺は自分がTシャツとハーフパンツの寝間着姿のままだというこ
とに気づいた。髪もボサボサのままだ。普段ならば絶対にこんな格好で外なんて出ないけれ
ど、今ばかりは構わずに玄関を飛び出す。

「ごめん、ドルー。苦しいよな。しんどいよな。ごめんな、あんなとこにぶどう置きっぱな
しにして。ごめんな、食べたことにすぐに気づいてやれなくて。ごめんな。……お利口なお
前が見境なく暴れるほど寂しい思いさせて……本当にごめん」

 腕にかかるドルーの重さに、涙が込み上がってくる。どうして俺、ドルーをこんな目に遭
わせちゃったんだろう。
 ドルーはすごくお利口で、聞きわけがよくって、俺の許可なく勝手なものを食べたりしな
い子なのに。いつだって俺との約束を守る子なのに。そんなドルーが家中をめちゃくちゃに
するほど荒れたのは、全部俺のせいだ。
 甘ったれていたのは俺の方だ。言葉が通じるからって、俺の都合ばっかり押しつけていた。
寂しいのなんて大したことないって、人間の尺度で我慢を強いていた。ドルーには俺しかい
ないのに。俺がいないことがドルーにとってどれだけつらいかなんて、想像したこともなか
った。

 走りながら、ボロボロと涙が止まらない。一緒に暮らすって、一緒に生きるって決めたの
に。どうして俺はこんなに自分勝手なんだよ!

「ごめん、ごめんドルー、ごめん……」

 謝っても謝っても足りない。声が枯れるまで謝ればドルーがすぐに治るなら、何百万回で
も謝るのに。
 行きつけの動物病院の前についたときには、俺は全身汗だくだった。息も整わないままに
インターフォンを鳴らし、「急患です! 犬がぶどうを食べてぐったりしてるんです! お
願いです、助けてください!」とかすれる声で叫んだ。

 まだ朝の七時前だというのに、裏口から院長先生の奥さんが出てきて、中へ入れてくれた。
 ドルーを処置室の台へ寝かせていると、白衣に着替えた院長先生と助手の奥さんがやって
来た。症状と経緯を話した俺は、胃からぶどうを出すために点滴で強制的に嘔吐させられるドルーを、ただ見守ることしかできなかった。