「……オレ悪くない……。約束守ってくれないカナタが悪い……」

 態度はしおらしいのに反省の色がまったく見えないドルーの言葉に、俺はもはや言い争う
気も起きず無視をした。
 尻尾を下げたままずっと後をついてくるドルーをいないもののように扱って、シャワーを
浴びさっさと二階の自室へこもる。ドルーは部屋には入ってこようとせず、ドアの前でしば
らくキュ~ンと鳴いていたみたいだけど、やがて階段を降りていく足音が聞こえた。

 ――もう疲れた。やっぱりひとり暮らしなのに大型犬を飼うなんて無理があったのかな。
 今さらそんな反省がよぎる。頭も体もクタクタで早く寝たいのに、気持ちがグチャグチャ
していて眠れない。
 ……俺もドルーも、これからどうすればいいんだろう。そんなことを考えながらようやく
眠りに落ちたのは、白々と外が明るくなった頃だった。


 ――眠りに落ちてから二時間くらい経った頃。俺は奇妙な音で目を覚ました。
 ゲッ、ゲッという短い不規則な音。水っぽい音。耳慣れない音なのに嫌な胸騒ぎがして、
俺は気だるい体を無理やり起こして部屋を飛び出した。

「ドルー? ……ドルー!?」

 階段を降りた先の廊下に、ドルーが横たわっていた。ぐったりとしていて、明らかに様子
がおかしい。口もとや周りには吐しゃ物が落ちていて、何度も嘔吐したことがわかる。

「おい! どうしたんだ、ドルー!」

 顔を抱えあげるけれど、ドルーは答えない。それどころか息をするのも苦しそうだ。
 なんだこれ。どうしたんだ。病気? 昨日まで元気だったのに――。
 そこまで考えて俺はハッと顔を上げた。転びそうになりながらキッチンへ駆け込み、テー
ブルの周りを見回す。

「あ、あぁ……っ!」

 床に落ちているバスケットと果物を見て、血の気が引いていった。――ぶどうだ。バスケ
ットに入れていた巨峰を、ドルーが齧った形跡がある。
 ぶどうは犬には厳禁な食べ物だ。原因はよくわかっていないが、中毒を起こす可能性が大
きい。個体差はあるが、ひどいと急性腎不全を起こして一日で命を落としてしまうケースも
あるそうだ。

 俺は昨日のうちにキッチンをチェックしておかなかったことを猛省した。あれだけ家中を
荒らしたのだから、よくないものを口にしたり誤飲していた可能性は十分にあったのに。