「カナ、少し体大きくなった。でもオレ間違えない。カナがオレのリーダーで友達。絶対に
間違えない」

 ドルーの言葉には一片の揺らぎもなかった。……そのすごい自信はいったいなんなんだろ
う。
 さらにドルーは俺と追いかけっこをしたり、ソリ遊びをしたり、ひとつのパンを分け合っ
て食べた話をしたが、やっぱり俺にそんな記憶はなかった。
 噛み合わない会話は堂々巡りで、やがて俺とドルーは同時に欠伸をして話をやめた。

「とりあえず、今夜は泊っていきなよ。ここでいいなら勝手に寝ていいから」

 時計を見ればもう一時半。眠いはずだ。
 明日も仕事だから早く寝なくちゃと思った俺は、今日の顛末を思い出し途端に重々しい気
分になる。
 喋る犬と遭遇した驚きですっかり忘れていた憂鬱な気分が甦り、ハーッとため息をついた。

「カナ、一緒に寝る?」

 立ち上がった俺を見て、ドルーが言う。「いや、俺は自分の部屋で――」と言いかけたけ
れど、なんとなく口を噤んで開きなおした。

「ああ、着替えて毛布持ってくるからちょっと待ってて」

 ドルーは微笑んで頷く代わりに、ふさふさの尻尾をピョコピョコと振った。


 深夜二時。寝支度をした俺はリビングのラグの上で、ドルーと一緒に毛布にくるまった。
 俺に甘えるように体を寄せてくるドルーは、フカフカで温かい。今の季節にはうってつけ
だけれど、重たいのと鼻息がわりと大きいのがちょっと難点だ。

 ……今日会ったばかりの犬と床を共にするなんて、どうかしていると我ながら思う。
 けれど、今夜はひとりでベッドに潜りたくなかった。こんなモヤモヤした気持ちを抱えた
まま穏やかに眠るなんて、できっこない。

「……ドルー、起きてる?」

 小声で尋ねると、ドルーの耳がピクリと動いた。

「なんだ?」

 返ってきた声はまったりとしていたけれど、まだ起きていられる余裕はありそうだ。その
余裕に、俺はちょっぴり甘えさせてもらうことにする。

「あのさ、ちょっとだけ話してもいいかな。眠くなったら寝ちゃってもいいからさ」

 一応断りを入れると、ドルーは「うん」と素直に返事した。
 俺はドルーの体を撫でながら、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 ――俺が今の仕事に就いたのは六年前、大学入学直後のときだった。