初めてドルーを怒鳴りつけてしまった。疲れとストレスで、気持ちが抑えきれなかった。
 怒鳴られたドルーは驚いたように俺を見つめて固まっていたが、やがてひたすらにギャン
ギャンと吠えだした。

「あーうるさい、うるさい!」

 俺は立ち上がるとトイレシートをさっさと片付けて、汚れたズボンを替えに行った。着替
え終わったときにちょうど四谷さんから『家の前に着いた』とメッセージが入り、リュック
を掴んで玄関へ向かった。
 ドルーは言葉を発さず、ずっとギャンギャン鳴いている。まるで俺と話すことを放棄して
しまったように。

「今日はロミオくんが夜に来るから。ちゃんと言うこと聞いていい子にしろよ」

 それだけ言い残して、俺は玄関を出ていった。ドアの向こうでまだ、ドルーの吠える声が
聞こえる。
 四谷さんの車に乗り込んだ俺は、まだ朝だというのにドッと疲れを感じていた。


 その日の夜だった。時間は午後八時。
『奏多くん。ドルーが……ヤバい』
 そんなメッセージと共にロミオくんから送られてきた写真は、目を覆いたくなるものだっ
た。

「うわっ!?」

 楽屋で出番を待ちながら仮眠しようとしていた俺は、スマホに送られてきたその画像を見
て思わず叫んだあと、頭を抱えた。
 送られてきた写真は合計三枚、うちの玄関、リビング、ダイニング。そのどれもが、嵐で
も吹き荒れたようにめちゃくちゃに散らかっている。スニーカーは齧られ、クッションはボ
ロボロ、ティッシュや雑誌の紙屑が巻き散らかされ、テーブルに乗せていたグラスやバスケ
ットは床に散乱していた。

「……何してるんだよ、ドルー……」

 肺の中の空気が尽きそうなほど大きなため息を吐くと、ただでさえ残り少ない気力が完全
に潰えた気がした。もう怒る気もしない。わずらわしいことを、考えたくない。

『ごめん。割れ物だけ片付けといてもらっていいかな。申し訳ない。あとは俺が帰ってから
片付けるから放っといて。ドルーの散歩、よろしくお願いします』

 ロミオくんにメッセージを送ると、すぐに『了解』とスタンプが返ってきた。それを確認
してからスマホをリュックに放り込み、ソファーに凭れかかって目を閉じる。今は少しでも
寝ておきたい。それなのに頭の中は散らかった部屋のことを考えてしまって、じわじわと苛
立ちが募っていく。