顔を洗って歯を磨いて着替えて髪を整えて……ああそうだ、ドルーの自動餌やり機にドッ
グフード補充して、トイレも綺麗にしておかなくちゃ。

「お腹減った……そういえばゆうべからなんにも食べてないな」

 ドッグフードと水の補充をしていると、俺のお腹がグ~っと鳴った。腹ごしらえしたいけ
れど、生憎すぐ食べられるものが家にない。もちろん作っている時間もない。冷蔵庫から水
を出して飲むけれど、あまり腹の足しにはならなかった。
 体が重くて仕方ないのは、エネルギーがないからか、それとも睡眠が足りていないせいか。
たぶん、その両方だと思いながらトイレシートを交換していると、目を覚ましたドルーが俺
のもとへやって来た。

「おはよ、カナタ! ブラシして! ブラシ!」
「え?」
「昨日約束した! はやく! はやく!」
「……あ」

 尻尾を振ってブラシを咥えて来たドルーを見て、俺はようやく忘れていた〝何か〟を思い
出した。そうだ……昨日の朝、ドルーの毛がゴワゴワしてるのを見て『ブラッシングしなく
ちゃな』って言ったんだ。でも昨夜は疲れてたせいで、すっかり忘れてた。

「あー……そうだったな。えーと……ごめん! 今は無理! 帰ってきたらやってやるか
ら!」

 俺はパン!と手を合わせ、ドルーに向かって素早く頭を下げる。どう考えても今は時間が
ない。四谷さんが迎えに来るまで、あと五分あるかないか。
 するとドルーはブラシをポトリと落としたあと、鼻にしわを寄せてウ~と低い声で唸りだ
した。

「カナタ約束やぶってばっかり! オレはお利口にしてるのに! 寂しくてもお利口にし
てるのに! 遊んでくれない! ブラシしてくれない! 撫でてくれない! カナタちっ
ともお利口じゃない!」

 感情を爆発させたドルーは、俺に向かって力いっぱい頭をぶつけてきた。体重が二十七キ
ロもあるドルーの体当たりは強烈で、俺は汚れたトイレシートの上に尻もちをついてしまう。

「あっ……! なにするんだよ、ズボン汚れたじゃないか! ああ、もう、時間ないのに!」
「カナタが悪い! オレ、怒ってる!」
「うるさい! 黙れ! 俺だっていっぱいいっぱいなんだよ! 毎日クタクタで、それなの
にスケジュールもめちゃくちゃで、ろくに睡眠も食事もとれてないんだ! 寂しいのぐらい
なんてことないだろ! 我慢してくれよ!」