「待ってた! オレ、カナタ帰ってくるの待ってた!」
「うん。ありがと」

 足にまとわりつくドルーを撫でつつ横に退けて、俺は洗面所へ向かった。

「カナタ……」

 ドルーはもっと喋りたそうだったけれど、構わず洗面所のドアを閉める。脱いだ服を色分
けもせず洗濯機に突っ込んで、俺は大欠伸をしながら風呂場へ入ってシャワーを浴びた。

 眠い。一秒でも多く眠りたい。ああでも、寝不足だからこそちゃんとスキンケアしないと。
めんどくさい。そういえば今週、燃えるゴミ出せてないな。めんどくさい。どうでもいい。
明日は事務所で雑誌撮影してからスタジオだから……八時に四谷さんが迎えに来て……三
時間、眠れるかな。ああ、明日も時間いっぱいまで撮影かなあ。梶監督も、こまかいとここ
だわりすぎじゃないのかな。それでみんな疲れていい芝居ができなくなってたら、意味ない
じゃん。特に琥太郎くんと藍くんはさあ……。なんとかなんないの、あのふたりマジで。

 イライラする。眠くて頭が回らない。俺は気合いだけでシャワーを済ませ、眠さのあまり
白目になりながらスキンケアをした。俺って童顔だから、肌が荒れるとすげーブサイクにな
るんだよ。

 ようやくパックも済んで洗面所から出ると、ドアの前でドルーが寝ていた。こいつ、ずっ
とここにいたのか。

「ここで寝てたら邪魔だよ」

 俺はそれだけ言うと、ドルーの大きな体を跨いでダイニングへ向かった。テーブルに置い
てあるサプリを水で流し込みながら、バスケットに入っているフルーツを眺めた。メロンに
巨峰に桃。事務所からもらったものの、どれも手付かずのまま十日近く経って少し傷み始め
ている。けれど今それを食べる気力は当然なく、処分する余力もないので放っておくしかな
い。

「寝よ……」

 二階の自室まで戻る体力もなく、俺はリビングのソファーに寝転がると三秒で眠りに落ち
た。――なにか忘れているような気がしたのは、夢かうつつか、もうわからない。


 翌朝。俺は四谷さんの『今から迎えに行く』というメッセージの着信音で目を覚ました。

「やば! アラームかけ忘れてた!」

 ソファーから跳ねるようにして起きた俺は、大慌てで顔を洗いに行く。四谷さんがうちに
迎えに来るまで、三……いや、二十分といったところか。それまでに支度を済ませなくては。