血の繋がらない子供と大人がひとつ屋根の下で暮らし、やがて本物の家族になっていくと
いうこのホームドラマは、子供ふたりがメインだ。坊ちゃん刈りがかわいい小学三年生の若
狭琥太郎くんと、サッカーが得意でいかにもわんぱくな小学五年生の薬師丸藍くんのふたり
がW主演で、純真な子供の目を通した家族の絆が見どころになっている。

 琥太郎くんも藍くんも、子供とはいえ芸歴は五年を超えている。いわば、子役のベテラン
だ。だから誰もがふたりの撮影がつまづくとは思っていなかったし、本読みやリハーサルで
もなにも問題はないように見えた。

 しかし、いざ迎えた撮影本番当日。ふたりの芝居はひどいものだった。琥太郎くんは台詞
がまったく入っておらずNG連発、藍くんは気持ちここにあらずといった様子でNG連発。
撮影はまったく進まず、最後には梶監督が怒鳴りつけてふたりが泣き出してしまう事態とな
り、現場の雰囲気は最悪だった。

 そしてメインふたりの撮影が遅れれば、当然そのしわ寄せは他のシーンに来る。子役が撮
影できるのは法律で定められている午後八時までだ。日中は優先して子役の撮影となり、時
間が押せば押すほど大人のシーンは夜にずれ込んでいく。
 琥太郎くんと藍くんと一緒に暮らす兄貴役である俺は、ふたりと撮るシーンも多い。昼に
スタジオ入りして子役とのシーンを撮影、しかしNG連発のため時間ギリギリの夜八時ま
でかかり、その後にようやく大人だけのシーン撮影が始まる。日によって異なるが、撮影が
終わるのは朝方だ。

 つまり俺は正午から翌日の明け方近くまでスタジオに籠っている。休憩時間や待機時間も
もちろんあるけれど、その大体はドラマの宣伝のための撮影や取材にあてられる。

 ――はっきり言って、俺は疲れていた。撮影が始まって二週間。隈を隠すメイクが日々濃
くなっていく。
 今までだって多忙で寝不足になることは何度だってあった。それでも前向きな気持ちでい
られたのは、いい仕事がしたいという思いがあったからだ。けれど今は少し違う。プロとは
言い難い態度の子役ふたりに寄るスケジュールの遅れに、俺は苛立ちを燻らせていた。


「ただいま……」
「おかえり! おかえり、カナタ!」

 午前四時。疲労困憊、テンション最悪で帰ってきた俺に、声を聞きつけて跳び起きたドル
ーが駆け寄ってくる。