「駄目。屋外リポートのロケとは違うんだ。撮影中のスタジオは基本、関係者以外立ち入り
禁止なんだよ。特に今度のドラマの梶監督はなにかと厳しいんだから、友達なんて絶対連れ
ていけないよ」
「じゃあスタジオの外で待ってるから!」
「お前を俺の目の届かない場所で長時間ひとりにさせておくわけにはいかないだろ? な
にかあったらどうするんだよ」
「なにもない! ひとりでも平気だ!」
「怪しまれて警備員に連れていかれちゃったら? もしいきなり犬に戻っちゃったら?
お腹が減ったりトイレに行きたくなったら?」
「なんとかなる!」
「ならない! 駄目ったら駄目!」
長い協議の末、ドルーはやりきれない悔しさを遠吠えにして吐き出した。俺は大きくため
息をつき、遠吠えを繰り返すドルーの背中を撫でてやる。
「休みの日にはドッグラン行こう、な? 広場でフリスビーもボール遊びもしよう。それと
も庭にビニールプール出してやろうか。最近暑いから、きっと気持ちいいぞ」
ぎゅっと抱きしめてやると、ドルーはキューンキューンと悲しそうな鳴き声をあげた。
「……カナタいないと、寂しい。つまんない。悲しい……」
「ごめん。でも俺と一緒に暮らしたいなら、少しだけ我慢して。ね? ドルーはお利口だか
らできるだろ?」
「……我慢、する……」
しょんぼりとしている体を抱きしめていると、なんだか俺まで悲しくなってきた。これで
も、ドルーには本当に申し訳ないと思っているんだ。けれど現実問題、働かなくてはドルー
を養ってやれない。もっと規則正しい就業時間の仕事に転職することもチラリと頭をかすめ
たけれど、天職だと思っているアイドルを辞めるのも、事務所の社長や四谷さんやお世話に
なった人たちに恩を返せないうちに業界を去るのも、俺は嫌だ。
「大丈夫、寂しくないよ。飛鳥さんもロミオくんもドルーのこといっぱい可愛がってくれる
から。散歩だけじゃなく、時間があればおもちゃでも遊んでくれるってさ」
「うん……」
とりあえず納得してくれたことに、俺は安堵した。
たったの四ヶ月だ。ずっと会えないわけでもあるまいし、なんとかなるだろう――そんな
考えは楽観的すぎたことを、このときの俺はまだ知らない。
連続ドラマ『ファミリーズ』の撮影は、実に難航した。
禁止なんだよ。特に今度のドラマの梶監督はなにかと厳しいんだから、友達なんて絶対連れ
ていけないよ」
「じゃあスタジオの外で待ってるから!」
「お前を俺の目の届かない場所で長時間ひとりにさせておくわけにはいかないだろ? な
にかあったらどうするんだよ」
「なにもない! ひとりでも平気だ!」
「怪しまれて警備員に連れていかれちゃったら? もしいきなり犬に戻っちゃったら?
お腹が減ったりトイレに行きたくなったら?」
「なんとかなる!」
「ならない! 駄目ったら駄目!」
長い協議の末、ドルーはやりきれない悔しさを遠吠えにして吐き出した。俺は大きくため
息をつき、遠吠えを繰り返すドルーの背中を撫でてやる。
「休みの日にはドッグラン行こう、な? 広場でフリスビーもボール遊びもしよう。それと
も庭にビニールプール出してやろうか。最近暑いから、きっと気持ちいいぞ」
ぎゅっと抱きしめてやると、ドルーはキューンキューンと悲しそうな鳴き声をあげた。
「……カナタいないと、寂しい。つまんない。悲しい……」
「ごめん。でも俺と一緒に暮らしたいなら、少しだけ我慢して。ね? ドルーはお利口だか
らできるだろ?」
「……我慢、する……」
しょんぼりとしている体を抱きしめていると、なんだか俺まで悲しくなってきた。これで
も、ドルーには本当に申し訳ないと思っているんだ。けれど現実問題、働かなくてはドルー
を養ってやれない。もっと規則正しい就業時間の仕事に転職することもチラリと頭をかすめ
たけれど、天職だと思っているアイドルを辞めるのも、事務所の社長や四谷さんやお世話に
なった人たちに恩を返せないうちに業界を去るのも、俺は嫌だ。
「大丈夫、寂しくないよ。飛鳥さんもロミオくんもドルーのこといっぱい可愛がってくれる
から。散歩だけじゃなく、時間があればおもちゃでも遊んでくれるってさ」
「うん……」
とりあえず納得してくれたことに、俺は安堵した。
たったの四ヶ月だ。ずっと会えないわけでもあるまいし、なんとかなるだろう――そんな
考えは楽観的すぎたことを、このときの俺はまだ知らない。
連続ドラマ『ファミリーズ』の撮影は、実に難航した。