「宮乃、京介のところに行った。京介これで元気になるか?」
「んー……どうかなあ。あとは当人同士のことだからなんとも言えないけど……」

 ふたりが絶対にうまくいくなんて保障はない。俺は神様でもなければキューピッドでもな
いんだから。でも。

「たぶん大丈夫じゃないかなあ。水町さん、根性あるし」

 俺はさっきの彼女の姿を思い出していた。まるで紙吹雪のように桜の花びらが舞い散る中
を進んでいく姿は、なんだか春の神様に祝福されているみたいだった。その進む道の先が悲
劇だとは、とても思えない。

「よかった! これでウェンディも元気になる!」

 嬉しそうに笑うドルーの笑顔は、いつものワンコスマイルだ。手を伸ばしてドルーの頭を
なでてやると、そのスマイルがますます屈託なく綻ぶ。

「じゃあ、俺たちもそろそろ帰ろっか」
「うん!」

 勢いよくベンチから立ち上がったドルーは、すぐに俺の隣に並ぶ。犬のときも人のときも
変わらない、一緒に並んで歩くときはここがドルーのポジションだ。

「ところでさ、ドルー的に初デートってどうだった? かわいい女の子と並んで歩くのって、ドルーでもやっぱ嬉しいものなの?」

 遊歩道をのんびりと歩きながら、俺はたわいもないことを口にする。人になっているとき
は異性への関心の対象が人に移るのか犬のままなのか、ちょっと気になっただけだ。
 しかしドルーからは「かわいいって、よくわからない」という想定外の答えが返ってきた。そこからかー。

「かわいいってのは……その子のことを見てるだけでニヤニヤしちゃうとか、ぎゅーって抱
きしめたくなるとか、守ってあげたくなるとか、そういう気持ちになる相手のことだよ」

 それが正解かはわからないけれど、自分なりの解釈で説明してみた。するとドルーは「ふ
ーん」と少し考えた後、俺をじっと見て目を細めた。

「それ、カナタ。オレの〝かわいい〟はカナタだ」
「はぁ!?」

 ニコニコしながら言ったドルーの言葉に、俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。
 ……まあ、確かに俺はどちらかというと〝かっこいい〟より〝かわいい〟で売ってるアイ
ドルだけど、でも飼い犬にまで「かわいい」って言われるのは……なんか複雑な気分だな。