ドルーにそんな忍耐を強いてまで水町さんとデートしてもらうのには、ワケがある。ドル
ーに水町さんの本当の気持ちを聞きだしてもらいたいのだ。
 おそらく、俺が聞いたところで水町さんは本当のことは話してくれないと思う。このあい
だの楽屋での一件もあるし、それに、立ち入った話というのは却って友人などには話しにく
いものだ。その点ドルーなら水町さんの好感度も高いし、彼女の人間関係と無縁な分、話が
しやすいだろう。

 そんなわけでドルーに重大な任務を任せたのだけれど、当然彼をひとりで行かせるのは不
安なので、俺はこうして変装をして見守っているわけだ。

 待つこと五分。フエルハットと大きめのマスクで顔を隠した水町さんが、小さく手を振り
ながら弾むような足取りでドルーのもとへ駆けつけてきた。
 さすがに離れた場所からでは会話は聞こえないが、水町さんの様子を見るに「会えてうれ
しい」的なことを言ってるっぽい。

 少しすると、ドルーが公園の中を指さしてふたりで歩き始めた。事前に俺が指示した通り
だ。ドルーにはプロムナードにあるベンチに座るように言ってある。
 満開の桜の下を歩くふたりは、なんともいい雰囲気の恋人にしか見えず、その後ろをコソ
コソ尾行する俺は少しだけ虚しい気分になった。

 ようやく会話が聞こえるようになったのは、ふたりがベンチに座ってからだ。俺はベンチ
の後ろの植え込みに、ジッと身を潜め耳を傾ける。

「ドルーさん、日本でどこか行きたいとこある? 神社とか温泉とか。私、連れてってあげ
るから一緒に行こうよ」
「神社、行ったことある。カナタが散歩で連れてってくれた。温泉は行ったことないけど、
テレビで見たことある。大きいお風呂。カナタがリポートしてた」
「ドルーさんってば、天澤くんの出た番組ちゃんとチェックしてるんだ? 天澤くんのこと
本当好きだね~」
「うん、大好き」

 ドルーには、わからないことは『わからない』で通せ、って言っておいたけど、案外会話
が成り立ってるみたいだ。微妙に会話がずれているというか、巧みに水町さんの誘いをかわ
しているような気もするけれど、片言の日本語しかわからない設定なので大丈夫だろう。
 しかし水町さんもせっかくのチャンスを逃しはしない。ドルーにぴったりとくっつくと、
甘えた声で話し出した。