「ドルーが正解だと思うよ。人間はいろんなこと考えすぎちゃうんだ。京介さんは腕のいい
フォトグラファーだったみたいだし、プライドもあったんだろうな。それに繊細そうだし。
もっとドルーみたいにシンプルに生きられればいいんだけど、そうできない気持ちも俺はわ
かるよ。人間の雄はけっこう臆病なんだ」
「カナタも臆病?」
「そうかもね。自分の気持ちが傷つくのは、誰だって怖いもん」
「カナタは傷つかない。オレが守るから安心しろ」

 そう言って鼻を押しつけてきたドルーをモフモフと撫でてやると、また抜け毛が舞い散っ
た。ソファーや床に散った毛を手もとのコロコロで取りながら、俺は「それでな……」と話
の続きを紡ぐ。

「ドルーにお願いがあるんだ。ちょっと難しいことかもしれないんだけど」

 お願いと聞いて、ドルーは「なに? カナタのお願いならなんでもやってやる!」と、自
信満々に鼻息を荒くする。俺はドルーの両頬を手で包み、ジッと青い目を見て言った。

「もう一回人間になって、水町さんに会いにいってくれないか? 今度はひとりで」


 翌週の水曜日。
 俺の頼みを聞いてくれたドルーは人生(犬生?)初めてのデートをすべく、新宿中央公園
へやって来た。公園の入口で水町さんを待つドルーは、テーラードジャケットとアンクルパ
ンツのセットアップをシックに着こなし、抜群のルックスとスタイルで道行く人の注目を集
めている。
 それに引き換え俺はといえば、ダサいロン毛のウィッグをかぶりサングラスとマスクを装
着した不審な姿で、ドルーのことを少し離れた場所から見守っている。水町さんや周囲の人
に天澤奏多だと気づかれないための完璧な変装とはいえ、ちょっと不審すぎただろうか。俺
を見る周囲の人の視線が痛い。

 都会のオアシスといわれている新宿中央公園はちょうど桜が見頃で、平日の昼間のわりに
は人が多い。散歩をしているお年寄り、ピクニックをしている親子、近道として活用してい
るサラリーマンと、色々な人がいる。

 公園には池や遊び場、ランチコーナーまであるので、ドルーには少し忍耐が必要だろう。
今も腕を組み目を伏せクールそうに立っているが、本当は後ろに見える広場をダッシュで駆
け回りたくてウズウズしているはずだ。耐えろ、ドルー。