ガレット・ブルトンヌに合わせたくなるだろうこと。以前に全員下戸と言っていた宗方家な
らば、赤ワインが家にある確率が低いこと。そして蓮美さんなら俺に買いに行かせず、自分
で買いに走るだろうこと。ここまでは俺の計画通りだ。
「すぐ戻るから、くつろいでてね」と言ってリビングから出ていった蓮美さんを見送り、俺
は京介さんの向かい側の席に座った。こちらの気配を感じてか、京介さんがパソコンを閉じ
て微笑む。
「騒がしい母ですみません」
「とんでもない。明るいお母様でいいですね」
そんなたわいもない話題で、京介さんとの会話は始まった。今まで蓮美さんとばかりコミ
ュニケーションをとっていたので、京介さんと向き合って話をするのは初めてだ。俺より少
し背の高い彼は、細面という表現がよく似合う。やや長い髪とリネンのカットソーがラフな
感じを与えるけれど、不快感のないナチュラルスタイルだ。
「もしかしてお仕事中でしたか? お邪魔しちゃって申し訳ないです」
「いえ。今は映画を聞いていただけですから」
「そうですか。……京介さんって、お仕事は家でされてるんですか?」
「ええ。今は知人の会社からライターの仕事を回してもらっています。目が見えてた頃はフ
ァッション雑誌のフォトグラファーをやっていたんですけどね。……これでも、そこそこ腕
を買われてて……、オルビスプロさんの子とお仕事させてもらったこともありますよ」
「そうですか」
寡黙な人だと思っていたけれど、そうでもないなと認識を改めた。いつもは京介さんが口
を開く前に蓮美さんが喋っちゃうもんな。
京介さんの方から事故前の話題が出たことで、俺は目的の話が切り出しやすくなって助か
った。
「その……以前と今で、けっこう変わったりしましたか? 環境とか、人間関係とか」
場合によっては失礼になりかねない俺の質問に、京介さんは嫌な顔をすることもなく「ん
ー……」と言って、足もとに伏せていたウェンディに顔を向けた。
「やっぱり変わりましたよ。離れていってしまった人もいれば、新しい出会いもたくさんあ
ったし。ウェンディと出会えたことは僕の人生の幸運ですけどね」
「そうですか……素敵なパートナーを得たんですね」
相槌を打った俺の言葉に、京介さんは反芻するように「……パートナー……」と呟いた。
らば、赤ワインが家にある確率が低いこと。そして蓮美さんなら俺に買いに行かせず、自分
で買いに走るだろうこと。ここまでは俺の計画通りだ。
「すぐ戻るから、くつろいでてね」と言ってリビングから出ていった蓮美さんを見送り、俺
は京介さんの向かい側の席に座った。こちらの気配を感じてか、京介さんがパソコンを閉じ
て微笑む。
「騒がしい母ですみません」
「とんでもない。明るいお母様でいいですね」
そんなたわいもない話題で、京介さんとの会話は始まった。今まで蓮美さんとばかりコミ
ュニケーションをとっていたので、京介さんと向き合って話をするのは初めてだ。俺より少
し背の高い彼は、細面という表現がよく似合う。やや長い髪とリネンのカットソーがラフな
感じを与えるけれど、不快感のないナチュラルスタイルだ。
「もしかしてお仕事中でしたか? お邪魔しちゃって申し訳ないです」
「いえ。今は映画を聞いていただけですから」
「そうですか。……京介さんって、お仕事は家でされてるんですか?」
「ええ。今は知人の会社からライターの仕事を回してもらっています。目が見えてた頃はフ
ァッション雑誌のフォトグラファーをやっていたんですけどね。……これでも、そこそこ腕
を買われてて……、オルビスプロさんの子とお仕事させてもらったこともありますよ」
「そうですか」
寡黙な人だと思っていたけれど、そうでもないなと認識を改めた。いつもは京介さんが口
を開く前に蓮美さんが喋っちゃうもんな。
京介さんの方から事故前の話題が出たことで、俺は目的の話が切り出しやすくなって助か
った。
「その……以前と今で、けっこう変わったりしましたか? 環境とか、人間関係とか」
場合によっては失礼になりかねない俺の質問に、京介さんは嫌な顔をすることもなく「ん
ー……」と言って、足もとに伏せていたウェンディに顔を向けた。
「やっぱり変わりましたよ。離れていってしまった人もいれば、新しい出会いもたくさんあ
ったし。ウェンディと出会えたことは僕の人生の幸運ですけどね」
「そうですか……素敵なパートナーを得たんですね」
相槌を打った俺の言葉に、京介さんは反芻するように「……パートナー……」と呟いた。