矢継ぎ早な俺の質問に、ドルーはおすわりから立ち上がると真顔っぽい表情で俺を見つめ
た。青い目が、こちらを責めているような気がする。

「カナのこと知ってるに決まってる! 忘れたりしない、絶対! ずっと一緒って約束した
から、オレはカナに会いにきた! うんとうんと探して、会いにきた!」

 興奮したのか、ドルーはワン!と一回吠えた。俺はすかさず「シーッ」と口もとに指をあ
ててから、ため息をひとつ吐き出す。

「でも……悪いけど人違いじゃないかなあ。俺、生まれてこのかた犬飼ったことないもん。
〝カナ〟ってお前の飼い主? 俺は天澤奏多(あまさわかなた)だから、まあ〝カナ〟でも間違っちゃいないけ
ど。でもやっぱ多分、違う人だよ」

 ずいぶん熱心に慕ってくれてるみたいだけど、おそらく人違いだ。
 飼い主を探し歩いていたのだとしたら気の毒だと思うけれど、うやむやにしても仕方ない
のではっきり告げる。

 するとドルーは「カナ……タ?」と不思議そうに俺を見た後、門扉に顔を押しつけるよう
に俺の体の匂いを嗅いできた。そしてブルっと一回首を振ると、再びワン!と大きい声で吠
えた。

「やっぱり間違ってない! オレ、間違ってない! カナが間違ってる!」
「だからシーッ! 吠えるなって!」

 そのとき、近所の家の窓が開かれた音がした。
 俺は焦って門扉を開けると、「とりあえず中に入れ」とドルーに小声で言って、ドアの鍵
を開けて玄関に駆け込んだ。

「カナの匂いする。ムズムズする匂いと、くすぐったい匂いも」
「なんだそれ」

 玄関に入ったドルーは面白いほど鼻をヒクヒクさせて、土間や置いてある靴の匂いを嗅い
でいる。
 電気をつけた俺は少し考えてから「ちょっとここで待ってて」と言い残し、洗面所で濡れ
た靴下を脱いでくるついでに雑巾を持って玄関に戻った。

「立ち話もなんだから、足拭いたら中入っていいよ。俺しかいないから」

 築二十年4LDK、庭とガレージ付きのこの家は、まごうことなき俺の実家だ。
 俺の大学入学と同時に両親は仕事の都合で海外へ引っ越し、それ以来、俺はこの家でひと
り暮らしをしている。
 ひとりで住むにはちょっと広いけれど、二十三区外とはいえ一応東京。交通の便がよく家
賃が掛からないことを考えれば、わざわざワンルームの賃貸に引っ越そうとは思わない。