けど、ウェンディの話を聞く限り、京介さんは別れたことを悔やんでいるんじゃないだろ
うか。……でも、京介さんは水町さんに『もう来ないでくれ』って言ってたんだよな。じゃ
あ、別れを切り出したのは京介さんの方なのか?

「そもそも別れた原因って、なんだろう……」

 もう少し詳しい話が知りたいなと、腕を組んで考えこんでいたところに、スマホのメッセ
ージ着信音が鳴った。送信者は――蓮美さん。

『来週、ドッグランいらっしゃる? もし来週も奏多くんいらっしゃるなら、今日言ってた
オレンジのガレット・ブルトンヌを作って持っていこうと思っているのだけど。ほら、今日、どんな味か気になるって言ってたでしょう?』

 メッセージを見ながら、俺は蓮美さんに感謝した。渡りに船とはこういうことだ。ナイス、蓮美さん。

『午後から行くつもりです。お言葉に甘えて、蓮美さんのガレット・ブルトンヌ楽しみにし
ています』

 スケジュールを確認してから、俺はすぐに返事を送った。そしてもうちょっと思考を巡ら
せて、もうひとつ下準備をしておこうと、スマホで紅茶の専門店を調べた。


 翌週。俺はドッグランではなく、埼玉にある宗方さん宅をひとりで訪れた。
 郊外の広々とした一軒家は庭にたくさんの果樹が植えられていて、なるほど、これが蓮美
さんご自慢の果樹たちかと感慨深く思った。
 二台分ある駐車スペースには、いつもドッグランに来るとき蓮美さんが運転しているステ
ーションワゴンが一台あるだけだ。おそらくもう一台は蓮美さんの旦那さんが仕事に乗って
いってるのだろう。

 インターフォンを鳴らすと、すぐに蓮美さんが出迎えてくれた。「こんにちは」と挨拶す
ると、蓮美さんは「芸能人がうちに来るなんて、なんだか信じられない気持ちだわあ。ご近
所に自慢しちゃおうかしら」なんて嬉しそうに言って、中へ案内してくれた。

「今日は押しかけちゃってすみません。でもせっかく蓮美さんがガレット・ブルトンヌ作っ
てくれたから、どうしてもご相伴に預かりたくて」
「いいのよお、誘ったのは私なんだから。それよりドルーちゃんの具合はどう?」
「ちょっと咳が出てるだけで、あとは元気です。食欲もあるし、すぐよくなると思います」

 今日ドッグランに行くと言っていた俺は、今朝になってドルーが風邪をひいてしまってウ