に匂いを嗅いでもらうため、ドルーの首輪にはこっそり指輪を通してある。これでもし宗方
さんとは無関係だったとわかれば、指輪は警察に届けるまでだ。

 ……まあ、別にウェンディに確認せずとも警察に届けちゃってもよかったんだけどさ。も
う水町さんに関わりたくないと思っていたし。
 けれどなんとなく引っかかってしまったのだから、仕方ない。

 俺に指輪を投げつけたときの水町さんは、普通じゃなかった。あのときは苛立ちと困惑し
か感じなかったけれど、時間が経って冷静になってみると不可解さが浮き彫りになる。
 最近になって彼女の性格が激変したことと関係しているのかもと考えると、なんとなく放
っておけなかった。

 おせっかいだとはわかっている。でも、人の情ってそういうもんだろと開き直りたい。
 友達と呼べるくらいにはよく知った人が、なにかおかしければ気になるものだし、もし問
題を抱えているなら力になってあげたいじゃん。

 そんな俺の勝手な事情で、本日はドルー協力のもとウェンディを探りにきたわけだが。
 蓮美さんの話にテンポよく相槌を打ちながら横目でドルーを確認すると、ウェンディとク
ンクンし合ったり、ピョンピョン飛び跳ねているのが見えた。……あいつ大丈夫か。他の犬
と接触できたことが嬉しくて、聞き込みを忘れて遊んでいるんじゃなかろうか。

 そのとき、「あら? ドルーちゃん、あっちに行っちゃった?」と、二匹が戯れているこ
とに蓮美さんが気づいてしまった。
 俺は慌ててベンチから立ち上がり、金柑をモグモグしながら「すみません! すぐ捕まえ
てきます!」とドルーたちのもとへと駆けていった。

「ほら、ドルー。もう行くぞ」

 しゃがみ込んでドルーの首輪にリードを繋ぎながら、小声で「話、聞けた?」と尋ねる。
ドルーが「うん」と言ったので、俺は安心して立ち上がると、宗方さんのいるベンチの方へ
と戻った。

「ウェンディの邪魔しちゃってすみませんでした。それじゃあ俺たち、そろそろ帰りますん
で」
「あら、もう帰っちゃうの? 残念。またね、ドルーちゃん」
「お気をつけて」

 挨拶をして、ドッグランコーナーから出る。ウェンディがどこか悲し気にこちらを見てい
ると感じたのは、気のせいだろうか。


 帰宅後、ドルーから聞いたウェンディの話は俺の想像以上に複雑なものだった。